13.大観峰(皮肉)
コロが前にいたおかげで、壁に背を打つことはなかった。だが、衝撃でマルーリのヘアゴムが切れたり、リンのヘッドホンが使い物にならなくなってしまった。
外も見てみると満天の星空になってしまっている。
何より目の前には、4人が卓を囲んで座っている。3人はげっそりした顔でいるが、ヤマメは平然としている。
城上町は遮る葉が無くなり、高地特有の強風が吹いている。それを結び癖がついた重い髪をもつマルーリが受けると、毛を逆立たせた獣に見える。元は爬虫類のはずだが。
コロの肩を叩き、道を開けさせると激しい剣幕でヤマメをまくし立てた。
「ヤーマーメエエエエエエエエエエエエエ。いったいどうしてくれるんだこの状況。君なら絶対こんな風にはしないだろうと思っていたのに。こうなるって分からなかったのか、分からなかったのか。低級な生き物と生活すると頭もそっち方向に下がってしまうのか。馬鹿にしているのか」
頬を引きちぎるほど、力任せに腕を広げる。ヤマメははひふへほと、何か言おうとするが言語として聞き取られることなく、ただ無残にマルーリの手の中で右往左往している。
そうしているうちに、他の住民たちも先ほどの衝撃で起きていて、屋敷の前に集まりだしていた。もちろんガロウの姿もその中にある。
「はあ。明日朝一から町の端に防風設備作ってくれたら許す。それをせずにこの町から少しでも出たって話聞いたらただじゃおかないですからね」
そう言ってからガロウの方に目配せした。
この二人はご想像にお任せする。
二人を残して住民たちはそそくさと帰っていった。幸いなことに家屋に被害はなかったようだ。この町の住民でない3人は屋敷の空き部屋をつかってもらうことにした。
朝が来る。
スイセイは上る太陽を見ながら「今日って何日なんだろうか」と思った。向こうでの1000年が大体こちらでの10年単位になるので、実は旅立った日の次の日でしかない。
廊下を抜け、元々の住民の主な生活スペースである広間に入る。
広間の仕掛け机の上には擦り切れた本が所狭しと積み上げられていて、一番奥では力尽きたマルーリが体重に任せて倒れている。上半身を背もたれの方にあげて顔を見てみると、曇りガラスの眼鏡が頭の上に引っかかっている。
充電、体のエネルギーの貯えが尽きたエバーワールダーは死人と同じく息も体動もしない。精密に作られた蝋人形とおなじである。ゆっくりと頭が左に落ちていく。
まあ、朝になったしいづれおきるでしょ。
眼鏡を目元にかけなおした。なんでまた、卓上を散らかしているのかは知れないがこの人は目を見られるのが好きじゃないらしいから。とりあえずのねぎらいで起きた時に見られないようにした。
外の階段から降りてくる音がして、次に広間の戸を開いたのはコロで、一緒に入ってきたのは宝石たちだった。
「やあスイセイ。よかったら今日一緒に学校回らないかい?面白いことがあるんだ」
「コ…、コロ丸でいいかな。その恰好だと、コロ王と呼ぶのはなんだかおかしい。」
「構わないよ。リンが起きる前に行きたいんだ。」
さて、城上町があるこの巨木。天気を操ることが生業の一族、ライトビの媒体として使われていたのだが。その重要な部分である葉が全て落ちてしまった。
葉が生い茂っていたお陰でグリマラのみならず、各国の天気は安定していた。だが、その一つの葉が全て失われたら、どうなるか。まだ先の話になる。
昨晩のうちに、ベイズとシルヴィアはマモリが森の方に連れ帰っていた。
今日もベイズはマモリと共に学校にいっている。シルヴィアはドラコに家に居てと言われて、ドラコが客人を連れて帰ってくるのを待っている。
「それを易々と見せていいんですか?」
ホログラム地図でマモリとベイズを浮かび上がらせているコロにスイセイが尋ねる。
「これで君も共犯者。チーム名がいずれは欲しいな」
ハハッと笑い飛ばされた。紫色の痣が残る頬は少しも動かさず。
「でね、ツキヨなんだがね」
口調を改めて、真っ直ぐとこちらを見る。
「今日決行できないかな。ほんのちょっとツキヨに罪悪感を巡らせる程度でいい。多分、ベイズ坊やならできる。」
「罪悪感で、ツキヨが止められるんですか?」
「私はあいつに罪の意識が欠けているから、ああいう悪行をしているのだと思ったのだがね。」
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