12.再びエバーワールドへ


 「それでツキヨを落とせる確証があるのか、という意味であるのなら、ああ、そうだな。

 私の歴史に対する探究に対してあれば、もっと昔のことも知りたい。というところだ。」


 シルヴィアが落ち着き払っていった。ヤマメはそれに笑って、顔色を取り戻した。


「でさー、早いところ切ってくれない?ボクは早いところあの姿になって帰りたいんだ」

 フッと鼻で笑って

「そうだな。スイセイしてやってくれ」

「わかりました。」



 机の上にヤマメの足が置かれる。スイセイは足の付け根の方に向かって、手を透明に不純物がないように凍らせる。一度ヤマメの顔を見てから、一振り、手を上から下に動かす。


「アチシロイェロカホヌルラニヌブオ」


 そう聞こえる呪文を3回唱えると、付け根から足の先が緑色の宝玉に変わった。スイセイは変化オーブ化した両足を引き抜く体制をとる。


「そら、よっと」

 掛け声と一緒にそれはヤマメの体から離れる。ヤマメは、少しがっかりしたような顔をした。スイセイがそれに気づく。

「あいにく、私は変態ではないので」

 ヤマメは鼻の上に皺をつくって笑い

「君がしくじって、ボクのアカシックレコード読んでゲーゲー吐く姿がみたかったんだよ」


 そうだった、と思い出しとっさに触れていた手を放す。ついでに出されたティーカップに手のひらの分の水を淹れる。


「それって失礼じゃない?」

「ベイズ君、続きは君がやってくれ」


 ソファーの上で床につかない足を揺らしていたのを止めてベイズが目を丸くする。

「いいの?」

「私が嫌なので、続きは任せます。フヨウの分身ですし、きっと素敵ですよ」

 足で境界線を作るようなしぐさをしてからソファーに座りなおし、屑籠に先ほどのティーカップに淹れた自分だったものを流し込んだ。

 シルヴィアは手を当ててクスクス笑いながらスイセイにワイン瓶を傾けた。



 ベイズは机に置かれた足の形をしたオーブを観察していた。

「いらないの?」

 すでに子供のような姿になっているヤマメに向かって尋ねる。髪は緑色のままだ。

「ああ、どうでもしていいよ」

 それを聞くと、オーブをつかんだ。ベイズの手の中に納まったオーブはまるで粘土のように柔らかくなり、その形が変わっていき、大きさまで変わっていった。数分こねくり回して、二人がワイン瓶を空にした頃にベイズが完成させたのは眼鏡だった。


 完成させた黄色の縁の眼鏡をヤマメに渡す。

「これをかけろって?」

 微笑んでうなずく。

 口元をへの字に突き上げてからヤマメはそれをつけてみる。耳と鼻に重さがかかると、ソファーが沈んだ。すれすれであるはずの足は床についた。丸っこいはずの爪は縦長になっている。大人の姿だ。


「え、何これ…」

 

ポンッ

 

 シルヴィアの親指でコルクがはねた。二人は別に酔っているわけじゃないが、楽しそうな雰囲気で吞んでいて全くヤマメの変化に気が付いていない。

 少しくらい驚いてもいいんじゃないか、とぼやいて眼鏡をはずす。

「はあ、これはもらっておくよ。それにしてもよく飲めるねー。」

「硬水に比べればこんなの。」

「美味」


 少し頭を抱えて、ヤマメは客間の整理を始めた。

 ティーセットは年代物だが自分の家では使わないから、土に戻す。キャビネットは気に入っているから、もとあったものと取り換えるために圧縮。チンツってなんだよ。染織物だよ。柄さえ覚えていればまた作れるといって焼却。そこにいる二人の飲んだくれの空瓶は粉々にして地面に埋めておく。


 一刻の猶予も与えず、残るは囲んでいる机と座られている椅子とソファーだけになる。二人は相変わらず飲んでいる。ちびっ子はヤマメの物がどんどん消えていくのをはしゃいで目で追っていた。ひとまず、瞬き二つで二人が持っているグラスとティーカップを消す。

「酔ってるわけじゃないだろ?」

「ここ数日何も口に入れていないんだ。夢中になっていた。すまん」

 目を合わせず、姿勢を正してシルヴィアが謝る。失態だと恥じているらしい。

「気持ちは分からなくもない。で、エバーワールドのどのあたりにつけばよろしい?」

「王の館で」

「わかった」

 開けた空を見上げて、高く高く一点を見つめる。

「城の木ってどれくらいの重さに耐えられるんだろ。まあ大丈夫だよね。

 【重力式瞬間移動】!!」


 第四アースに降りた時学んだスイセイは体を極限まで縮ませることで、密度をあげてばらけないようにした。シルヴィアは頭が持ってかれそうになったが何とか耐えた。ベイズはスライム状の物体になっていた。

 渦を巻かないブラックホールがエバーワールドの一か所に発生したことを誰かが気づくことがあっただろうか。ないわけがない。


 屋敷の前が重力原になっているので、まどろんだり、映画を見ていた住人は地響きと、振動で目が覚めた。

「マルーリ!!何があった!!」

「いや、わからない。外からだ」

 コロは二階の手すりを蹴って、玄関の戸に飛び込んだ。普段のマルーリならコロの行動に叱り飛ばすだろうが、不測の事態のため今回はなし。勢い余ったコロの後ろ首をつかむだけにした。


 玄関の外には葉と枝が落ちている。

「近づいてはいけない。これは、ヤマメの重力移動だ」

「隕石でも落とすのか?」

 不安を漏らす問に首を振りつつ、葉の下を指さす。葉は地面につかづ、浮いた状態を保ち続けている。

「寸止めだ」


 葉だけでも、地響きと人が起きるぐらいの振動を作り出しているのだからとんでもない早さだろうが。とは言わない。

 屋敷は壊さないでくれよと淡い願いをして、コロの後ろに回る。

「え?そこは前に出て守るところじゃ?」

「何言ってるんだ。私はお前とは体のつくりが違うんだよ」

 コロは自身の体重とマルーリの体重を思い出した。


 マルーリって、200キロぐらいで私は計測不能だったな。


 頃丸理で先代ココ王の実際の体重が10トンと記述したが、あれは計測可能な範囲内だった。コロはいまだわからない。

 コロとそれほど身長に差がないリンはマルーリの隣に陣取る。一つぐらいしか年の差はないはずだが、いまだ甘え癖がとれない。逆に甘え方を知らないのも大変だが。


 さて、隕石が落ちる時の衝撃。落下してくる際に燃え尽きてしまうものだけでも、人に日焼けさせるぐらいの光エネルギーをもたらすことがあり、周囲の家屋の窓ガラスなどは割れてしまう。人も立ったままではいられないだろう。

 ヤマメは遠くの星までも届く重力を発生させて、その距離を落下してくるのだ。


 賢いマルーリは、思う。

 城上町が破壊される。それどころかこの木の葉がすべて落ちる。


「まさかヤマメがそんな頭の悪いことするはずがないじゃないか」

 かぶりを振る。


 それと同時。


 豪風と共に4人は現れた。

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