11.ガス灯の町
「この環境があと数百年続いたら、あの雲に飲み込まれてこの国の人達は全滅するってかけてもいい。」
ベイズの体が乾き、それっぽいみすぼらしい大人の大きな服装に代わっている。そのため袖を折ったり、裾を上げたりしている。二人は一緒に変身したカバンの中にいる。
「体中にガスが入ってくる!!こんな水誰が飲むっていうんだ!!」
「落ち着きたまえ」
パチンと、指のないように見える手がスイセイの頬を叩く。
「私もそろそろ干からびそうだ。だが、こやつと同じくここの水は飲みたくない。第一、何故坊主はそんな格好になっているんだ。」
路地の方奥で、カバンの中を広げて三人は会話していた。
「だって、この国でよまわりが楽なかっこうみつけるまで、子どもが独りでいても不信に思われないようにしているんだよ」
「坊主が大人の恰好をしたらいいんじゃないか?私はさっき通った変なボンネットなんかつけたくないぞ。」
「うーん、しゃべらないといけない羽目になったら、スイセイのお兄ちゃんが代わりにしゃべってよね」
カバンを地面に置いて、ベイズは体を構成し直した。目の下の入れ墨は、彼がライ族だということを象徴するように忌々しく残っているが、明るいオレンジの髪は燃えるような赤毛に変わり、後ろの方にオレンジ色のリボンで束ねてある。ボウラー・ハットをかぶってしまえばその国の紳士の一人だ。
ベイズが最後の仕上げという風に左手を軽く振ると、そこから長い棒、ステッキが生えてきた。
「なんだよ、坊主はこの国このことよく知ってる風じゃないか」
「船着き場で、大きい船におおきいかおで乗っていったひとがこの格好だった。使い道はよくわからない」
口調はそのままだが、声は低くなっている。スイセイからすると、
感情はあるはずなのに、重要なところが雲で覆われたみたいな子ども。
というかんじだ。大概、子供の行動なんてものは予想がつかず、危険なものだが、ベイズは危険なものではなく、もっと奇怪なものを秘めている。
シルヴィアに対して、今の姿は観察の結果だ。と言い放った後、カバンをもっと高価な。それこそ皮をなめしたものに変身させた。その中にいた二人にはプレゼントに着けるリボンが括り付けられた。
「どうするんだ」
「とりあえずむめいはかばを探しましょう。」
「あ、こういう時、エバーワールダーでない星人は地図を見るらしい」
「じゃあ、地図探しか。」
三人がたどり着いたのは、大陸ではなく、その大陸の近くにある島国。侵略、撤退、また侵略を繰り返し、もともとの原住民はいないに等しい。
この国、財と頭を使いこなせるものが上に立ち、体だけが資本な者は死ぬまで働くような国だ。多少の教養があって容姿などが気に入られたものは上に使えたりした。
やはり、浮かれた富裕層に嫌気がさし、下克上のような形で殺人を犯すもの、ただ単に快楽を求めて殺人を犯すもの。空腹で、認められないことをしたりと。
都を分ける運河の下にはどれだけの人が眠っているのか。
なんとなく、誰がしでかしているか予想がつくのはなぜだろう。
「でもあの人証拠も残さず食べるからなあ」
スイセイは地元史を片手に首を傾げた。
「おい、たわごとを考える暇があるのなら地図を探せ。お前なら紙に手をかざすだけなんだからな」
銀髪をプラチナブロンドに変えたシルヴィアがスイセイにささやく。
スイセイも紫の髪を黒髪に変えており、服を紺のローブに変えている。
シルヴィアは流行りのドレスは嫌だとごねたためスマートな黒と赤紫のグラデーションのAラインドレスを着ている。通りすがるご婦人方に振り向かれるのは悪い気持ちしないと。シルヴィー曰く、手本になってこそ王族。尻を大きく見せて恥ずかしくないのか?
時々、視線を向ける貴婦人方に、指すように鋭い視線を横切らせながらシルヴィアはベイズの手を手袋越しに握っていた。この手袋は先ほどくすねてきた。
ベイズはオーバーオールと、フリルのカッターシャツを着て、赤毛にしていた髪はくるくると巻いている。
「す、すいません。向こうの方見ましょう。地域じゃなくって、土地のほうがいいのかもしれません」
「よかろう。お前の図書館とは勝手がちがうのか」
「うーん、どちらかといえば見習うべきなのかもしれません。私も他の星の図書館を見るのは初めてですし」
植物性の紙が出回り始めてもう幾千と時が過ぎているらしく、アライザの図書館には負けるが、この図書館もかなりの蔵書数である。
棚一つごとに手の指を一本ポキリと折って、放り込んでいく。5秒ぐらいたつと、スイセイの指はもとの形を新しくつくっているので、たまたま見かけた人も目の錯覚ぐらいに思って通り過ぎている。それに、小さい子がいるし手品のつもりなのかも。
片手間に、開いていた本を閉じて、迷いなく、スイセイが足を進めるようになると、シルヴィアがベイズを抱えて後をついていった。
「ありました。ベイズ、コピーしてくれるかい?」
シルヴィアの腕の隙間から手を伸ばして、ベイズが本に触れた。指先からオレンジ色のテラテラしたエネルギーが本を囲み、まだ戻っていなかったスイセイの指をペッと吐き出した。
エネルギーがベイズに戻ると、ベイズは片手からロケットを作り出した。
「これがたぶん該当するはかばのほうこうをさすよ」
「これならバレないな。さっさと出るぞスイセイ。」
「ああ、はい」
図書館をでて、大通りを突き進む。
「道はきれいになったが、霧が濃いな。」
「そんなきれいなものじゃないですよ。スモッグです。これなら多くとも0.01パーセントぐらいの住民が死ねます。」
「少ないな」
「いえ、ざっと一万人です」
「…。緑化したほうがいいな。この石造りの町は」
さて、エバーワールドも日付が変わろうとしていた。
コロは昨晩と同じく、宝石の性格付けに勤しんでいたが、マモリとマルーリは何やら不穏な空気を広間に醸し出していた。
「…フフ、本気でやるの」
「しないといけないんです」
「痛いんだろ」
「はい。もがくほど」
「ホントに、やらないといけないのか」
「師に任せたらもっと屈辱的な目に遭いますよ」
「ヤ、ヤマメキュンになら別にいいかなーって」
「多分、マルーリさんの昔のお仲間をお食べになった時のことを淡々と話しますよ」
「あ、じゃお願いします」
忘れかけていたものを思い出すのは良くない良くない。
「それでどうするんだ」
「横になってください。」
「あー、」
自身の寝室の方向を見る。
「もうリンが寝ちゃってる。」
「じゃあ、この長机に横になってください。」
うっ、といってから身を載せる。
「なんか、料理になった気分」
「末子を親離れさせていないのがいけないんですよ」
「お、親じゃない」
「おっと、そうでした」
マモリは懐から出した杖を、数回指ではじいたあと広間につながる扉に呪文をかけた。
「なにしたの」
「いまからここで起こることを聞かれないようにと、入ってこないようにしました」
「うーん、まかせる」
上げた頭を下げて、完全に身をゆだねた。
「目隠しと噛む用の布いります?」
「目隠しはいらない」
「はい。」
マルーリの口元に布がかかる。
「それじゃ、いきますよ」
「うむ」
マモリは袖を託しあげて、両手をマルーリの腹に置いた。両手はマルーリに沈んでいくと、マルーリの顔が歪み始めた。
「一瞬ですからね」
「グウウウ、」(本気で言ってんの)
「この体には不必要な物よ、全ての無くなれ」
マルーリのくぐもった悲鳴とともに沈められた手の方が光った。マルーリは身をよじろうとするが、腹の方を軸に動けない。
光が収まると、マルーリの顔も安堵の表情に変わり、噛んでいた布を取った。
「あー、終わったのこれ」
「師にしてもらってもよかったななんて思ってないですよね。」
「いや、まさか」
「あの人がやったら、今のがやたら長くなりますよ。一つ一つ内臓を消すたんびに」
「いやもう、わかったから。ありがとうマモリ。さっさと終わらせてくれて。感謝するよ」
「一生するがいい」
というようなことをしていた。
エバーワールドと第四アースの時差はとてつもなく、こうしている間にも三人は墓場近くにいるという奇妙な錬金術師の噂を発見した。
「貴様の趣味に付き合うのも悪くはないな」
「それでも百聞は一見に如かずですよ。」
そんな会話を通りかかった教会の書庫でしていた。
またその噂のある一文をベイズにコピーして地域を絞り込み、向かった。
道中の移動はベイズが2頭の重装馬を馬車に変身したものに乗って移動している。この馬車も町を歩いている最中に見て触れたのだという。
「いつの間に」
手を握るシルヴィアがそう零すが、ベイズは口の端を上げるだけ。
「あ、そうです。いろんな文献にヤマメさんがやっただろ見たいなことが書いてありましたよ。」
「マモリが聞いたら耳が痛くなるだろうな」
「なんでも、この国が7つぐらいに分かれていた時に、この島に渡ってその一国の王様に両手の上に黄金を集めて見せた人がいるらしいです。」
「あからさまだな。見つけてくださいと言わんばかりじゃないか」
「あと、霊薬を完成させたから不老不死なのだって言う錬金術師がいるらしいです」
「そんなのなくともたやすい時間だろう」
「完璧な人の解剖図を描いたことで、教会からその模型をつくってくれと言われて、精密な蝋人形を送って送られた側が発狂したという話もあります」
「好きものだな。本当は本物で作ろうとしたに違いないぞ。だが食欲に負けたんだ」
ハハハと乾いた笑いを響かせて、草が生えなくなった裸の道を通り過ぎて行った。
ベイズは、また日が昇る頃には次の石造りの村の門についていて、二人が出てくるのを待っていた。
「おはようございます。」
「ここがその村か」
「なんでも昔は、戦争地帯だったらしいです。捕虜をそのままにして、それが村を形成したみたいです。敗戦者である以上、名前を残せず、墓場も名前のない墓石がさんらんしてるようです。」
「それに紛れて、ヤマメに食されてしまった空の棺桶もあるわけか」
「でしょうね。この村の奥の林あたりに家はあるそうです」
回り道だが、とシルヴィアがいって、村を迂回し林に向かった。
自分でない森に入るのは妙な気分だな、と思いながら歩いていくと少し開けたところに、この国の今の技術では到底作れないようなガラス張りの温室と、二階の方から出ていく広いベランダ。その下の空間に詰まった、植物の乾物と生き物の死骸。
「進化を守ろうとするやつがいたらヤマメは削除対象だな。やりたい放題だ」
水瓶が置かれた玄関と想像できる戸に近づき、三人はエバーワールダーとしての姿に近い恰好になった。例えば髪の色と目の色とか。
シルヴィアがノックする。
家の奥から
「誰だ?」
と、甘く響く低い声が投げかけられる。
「シルヴィアだ」
「どのシルヴィア?」
「シルヴィア・ドラコニズル・シャーン。ドゥブラ公爵の娘だ」
軽い足音が一つして、ドアノブを動かす音が静かになる。
「本当にシルヴィア姫か?その、なんだか大人っぽくなって」
ドアの向こうから姿を現したのは緑髪の、それっぽい眼鏡をかけた小さな黄色い瞳を大きな目に置いた、大人。
「そりゃ、10年も経てばこうもなるさ。あんただって人のこと言えないぞ」
「なんだ、向こうは10年しかたってないの…んですか?」
「あーここでは1000年だったか。マモリにあなたを連れ戻して来てほしいって頼まれたのでね。なんで戻ってこなかったんだ?」
ヤマメ、と思われる人物は前髪と、体を指さした。
「逆にこれが、あのヤマメ・エレメトだと分かるのがすごいですよ。これじゃ、ガロウ君のとこには戻れない。元は自分でこの体をいつものようにオーブを切り離すことで小さく幼くまとめられると思ったんだ。それができなくてね。だから諦めて宇宙に出て、逃げたんだ。」
「それだけ?その姿をガロウにみせたくなかったからか?」
シルヴィアが目を細めて、ヤマメを舐めまわすように見る。ヤマメはそれにぎょっとして、身を引く。
「だって、ボク可愛いで通ってんだよ!ちょっと待って、服きれいにするから」
足を二つならして、薬品と植物の汁で汚れた白衣と、ぼさぼさの髪をきれいにする。
「それ自分で言うのか。てっきり情報汚染でもして周りの連中をそう思わせているだけだと思っていたんだがな。」
「それは言いがかりだ。」
身なりを整えただけで、整った顔立ちや、非の打ち所がない体つきが明らかになって、後ろのベイズが唾を飲み込む音がした。
「で、後ろのオレンジの子供は誰?あ、スイセイもいたんだ」
「フヨウの分かれた姿。ベイズだそうだ」
「花の名前じゃないんだ。そういえばフヨウもボクのこと好いてくれてたもんね。ちっちゃいのにボクの魅力が分かるなんていい子だねー」
ヤマメがしゃがんで手を振ると、ベイズは顔を赤くしてスイセイのローブの後ろに隠れた。
「うーん、二人をみて思い出したよ。ライ族ってどんなエバーワールダーでもオーブ化することができるよね」
ベイズに気を取られていたスイセイが、急に声をかけられたことに驚きながらヤマメをみる。
「できますね」
「よし、じゃあボクの体切ってくれ。じゃないとエバーワールドには戻らない。」
「は?」
シルヴィアとスイセイが同時に声を上げた。
「待て待て、正気か?それで十分、ガロウだって魅了できるだろ」
「そうですよ!マルーリさんが、ガロウさんは『ヤマメさんがどんな姿で帰ってきても俺はそれを受け入れる』って言っていたって教えてくださいましたよ!!何なら帰ってガロウさんのアカシックレコード引きずり出して見せましょうか!?」
おそらく、二人は今までで一番取り乱している。
ヤマメは口をとんがらせて、次の理由を考えた。
二人にゆっくり目配せしてから口を開いた。
「なんか、この姿になってから食欲が増えたみたいで。向こうに帰ったらバイサーバの文明終わらせるぐらいに食べるかも。」
「切りましょう」
「切ろう」
ほぼ同時の返答である。
そうなるとヤマメの行動は早い。
にこやかに三人を迎え入れて、散らかった部屋に手をかざして全てきれいに処分か整理し、アッという間に客間を作った。
「三人とも首都の方から来たんだろ?じゃないとそんな恰好しないよね。あそこ空気ひどいよねー。蒸気機関教えたはいいんだけど、計画性のなさが災いして、衛生面が地獄の犬小屋みたいになっちゃった。お茶淹れるね。」
「いや、それより」
先に話を進めようとするスイセイの肩にシルヴィアが手を置き、
「持て成されようじゃないか」
爽やかな笑顔を、スイセイに向けてシルヴィアは一人チンツ張りの椅子に座った。ベイズは隣のソファーに座った
あー、この人干からびそうって言ってたもんな。
そう思って、静かにベイズの隣に座った。
ヤマメはキッチンに向かって指を動かして、お茶の準備をしている。普通、こんなに早く水が熱湯に変わるわけがないだろうというような時間でポットと、二人分のティーカップ、ワイングラス、あめ色をした茶葉と、ワイン瓶を囲んだ机の上に浮かせた。
このヤマメ、マモリと並ぶほどの元素魔法の使い手で、さらに重力移動という思い通りに動かせるギフトを持っている。器用に使い分けて、紅茶を淹れる作業と、グラスにワインを注ぐ作業を同時に行っている。ついでにポットの中身のお湯も温度調節しているようだ。マモリが重力移動を使いこなせない以上、ヤマメの方が未だ実力は上なのかもしれない。
「はいどうぞ。ボクはちょっと席を外して、持って帰るものと消すものを分けてくるよ」
そう言って、長い脚を地に着けずに、座った体制のまま階段を上がっていった。
「変わってないな」
「10年ぐらいで性格が変わるような人には見えんだろ」
「それもそうですね。それって果汁ですか?」
「わかるか。まあ私は色素だけいただくのだが。」
そういって、シルヴィアがグラスに口をつけると付けた部分から赤色が吸い込まれるように無くなった。
「飲むかスイセイ。」
「いや、やめておきます。アルコールは飛ぶので。」
「そうか。この食紅いけるぞ」
いやーわからないなーという苦い顔をしながらスイセイも紅茶に口をつける。
やっぱ水はわるいなー。硬水だ。
「やっぱりワインいただきます。」
「ほいほい、」
空になったティーカップにワインを注ぐ。
ベイズは静かに、ティーカップの中の紅茶を変質させていっている。
ガボン
何か大きなものが無くなったような音がすると、ヤマメが客間に戻ってきた。
「時代にそぐわないのが見つかったら大変だからね。全部圧縮した。どうせボクの昔の家は落ちてしまっているだろ?」
「そうですね。あ、大事なこと忘れてました。」
シルヴィアの手が止まる。
「そうだ、ヤマメ、昔の歴史を吐け。」
グラスを机に置いてヤマメをビシッと指さす。
「昔の歴史ィ?魔女狩りに遭いそうになったとか?この容姿のせいで淫魔ってまちがえられたこともあったけど」
ヤマメは変わらず座った態勢で動いている。三人の前の椅子に着くと足を組んだ。
「そうじゃない。なんといったかスイセイ」
「オーバーヒートです」
「カゴウ君じゃん」
「違うだろ!」
シルヴィアが膝を叩く。
「お前の書きかけの手記だ!」
ヤマメが俯き、眼鏡の屈折で奥の目が見えなくなる。
一息ついてから、口を開いた。
「スイセイ。お前も知っているだろう。まずお前から話せ」
ひどく落ち着いた声。
シルヴィアがスイセイに背を伸ばして向く。
「あー、えと、」
指を交互に動かしながら、言葉を選ぶ素振りをする。
「昔…だいたい5代前になるのかな。それより前かも。えと、ちょっとヤマメさん冷やしてもらえますか。緊張であがって…」
「ああ、そうだったな」
ヤマメが指を上から下に動かして、手を自分の顔に当てた。
スイセイの顔に霜が降りる。
「まず、シュウシとアヤシから。彼らは異形以外のエバーワールダーの子孫をつくりだします。作り出したいという依頼を受けて、本人の形をそのまま残し、本人の中にあるそぐわないものを取り出します。これがもう一つの方法であることは姫も知ってらっしゃいますね」
「ああ」
「エレメトは、エネルギーを摂取すると自身が成長し、それを切り取ることができます。シュウシとアヤシはそれを二組受け取り混ぜ合わせ新たなエレメトを形作りました。当時エレメトは今の異形ほどいました。ヤマメさんはこのころ頭首でした。」
ヤマメがうなずく
「ですが、ツキヨはその繁栄をよく思っていませんでした。そこで、ヤマメさんのもとにロイスを連れていったのです。ヤマメさんはロイスを快く迎え入れて、もてなしました。ロイスは…見えないところでエレメトを数人殺しました。」
「姫が森で起きたことに気が付かないわけがないように、自分の領地で起きたことにはすぐに気が付いた。あの頃まではツキヨの本質が分からなかったんだ。信じられなかったのを覚えている。すぐに非難するように指令を出して、今の山がある場所に逃げ込ませたんだ。そして、当時の私にできる精いっぱいのことをやった。それで小さな体になったんだ。」
手を離すと、大きな目が眼鏡を通してさらに大きく開いた。
少し、ヤマメの声は震えて。
「だが、それだけでは終わらなかった。知っている通り、山が解放されるまで、エレメトはボクとホウライしかいなかった。掘ればわかる。山の一番下にはボクの城がある。避難場所だ。そこに堂々と幼いロイスは目を爛々とさせて踏み込んできたんだ」
少し、静寂が走り、シルヴィアが口を開こうとするとヤマメはそれを制した。
「大丈夫。最後まで話せる。
蝕は恐ろしいギフトだ。あれはエバーワールダーをエバーワールダーではなくさせる力といっていいい。全員塵になった。
本当に最後の手段だった。当時の僕が好いていた相手と、末の弟のホウライを連れて、いうなれば、今の山を作ろうとした。ホウライのギフトが噴火だから。
その相手を生かそうとして、ホウライを怒らせようとして、足止めにボクが犠牲になると言ったんだ。そうしたら彼が、『あなたは頭首なのだからここにいて』と言って、一人ロイスに向かっていった。」
眼鏡を机に置いて、涙をぬぐった。
「彼は…僕の前で傷ついて倒れて、崩れていった。
近くにいたホウライと一瞬心が通じて、シンクロを起こした。そして今の静かな山になる原型である火山ができたんだ」
顔を伏せて、シルヴィアに
「君が聞きたい話だったかな」
と尋ねた。
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