9.ことわり。

 コロは、ドゥブラを見るとやっぱり親戚なんだなーと思う。

 黒い髪は艶やかで、寧ろ青く見えるほど黒い。ドゥブラは短髪にオールバックだったけれど、長髪にすればとても綺麗な人に見えることだろう。


 というわけで、新ホテルミラー建設地にマモリと共に赴いている。

「やあおじさん」

 目を細めて、あふれんばかりの笑顔を作って見せる。

「おや、コロか。相変わらず子供らしくない顔をしてるな」

 ドゥブラはとんでもないめんどくさがり屋なので、声に起伏がない。強調しようともしないのだ。

「子供らしくないって、昨日王になったばかりなんだから、子供らしくできるわけな

いでしょ。まだ子供だからって舐められるのは嫌だね。」

「マルーリはどうしたんだ。まだマルーリとの教育期間だろ」

「マルーリは他にやることがあるって言ったんだ。昨日学校にいるときに。今日中には終わらせるとは言っていたから、明日からはマルーリと一緒。」

「ふうん」


 ワイングラスを傾けて、ドゥブラはいわゆるプールサイドチェアに横になり、足を延ばした。


 マルーリがカルーナの方を頼る気持ちがよくわかるぞ。それに、マルーリとカルーナって名前が似てるもんな!!


 ホテルミラーといえば、最近ようやっと、最上階までの形が出来上がってきたところで、これから内装というところだった。内装はドラコスネイの職人や、ウル地域の異形から買ったものが主になる。カタログがドゥブラの横に置いてあるので分かった。

「カタログは自分で見ないとだからな。あのゾンビどもでは、何を置くか知れたものじゃない。」


 建設作業をしているのは、顔色が悪いエバーワールダーではない、異星人。おそらくバイサーバの人間。大きな傷、出血した跡、火傷や、腐食、さまざまな外傷のある死人たちが、二本足で歩いている。


 これがドゥブラのギフト。「死人使役」


 コロのギフト「命令」と似ているといえば似ているが、ドゥブラの場合儀式が必要になる。儀式、まあ、その死人の体との契約だ。

 コロには必要がない。その点では上だと自負している。


「おじさん。一時シルヴィー姉さんを借りますよ。」

「シルヴィーを?」

 グラスに口をつけたままこちらを振り向く。

「はい。」

「別にいいが、シルヴィーは森から外に出れないぞ」

「もちろん。対処法をつくりましたので、問題ないです。」

「ふうん。まだ嫁にも行っていないのに、何かしたら許さないからな」


 この人は姉さんがなんと呼ばれているのか知らないのか?


 冒頭。サトム、マモリ、シルヴィアの会話中、サトムがシルヴィアのことを「ムッロ」と呼んでいたことを思い出してほしい。

 ムッロというのは吸血鬼のなかでも淫魔に分類される伝承上の生き物だ。

 まあ、ここではシルヴィアが売女と呼ばれているという風に思ってくれたらいい。

 今後陰獣も出ることだろう。


「昔からあの子は触手のある異形でなければちぎりを交わさないと言ってきかなかたからな」


 そういうところだぞ。


「マモリが海のほうで、よさそうな相手を見かけたといっていました。今日ドラコに会わせてるんだよね」

 マモリは静かにうなずく。

「まあ、一時会えんけど」ボソッと言う。




 朝露も乾ききった森は、これから来る時期に対して、むせ返るほどの香りを醸し出していた。鳥系の異形はやけにやかましく、騒ぎたてて、群れではなく、2羽1組で飛んでいる。植物系の異形は花粉をまき散らすためにきれいな花を頭に咲かせている。


 ベイズはシルヴィアに肩車されて、それを見ていた。

 記憶を読まれないよう、布を挟んで、肩にのせている。

「えっと、これがこうで、」

 スイセイはマモリとコロが置いていった、乗り物にヤマメのオーブを取り付けていた。移動はベイズがなんとかするという。

 シルヴィアは試験的だが、底に森の土が入った靴を履いている。確かに森の上にいる感じはするが…。ついでに森の土の入った袋を持たされた。

「しるヴぃーはおはなのにおいがする」

「季節で変わるぞ。今が一番の時期」

 舌足らずのベイズと何気ない会話をするのはいい気分だ。自分もこういう子が欲しいと思う。

「終わりました。ベイズと一緒に前に乗りますか?」

 マモリが置いていったうちわで風を浴びながらスイセイが言う。

「いや、後ろに行こう。ほらベイズ」

「んっ」

 両脇下をつかんでベイズを下ろす。ベイズは降りたとたん乗り物の操縦席と見える場所に座った。二人はその後ろの多少くつろげそうな椅子に座った。

 二人には隙間から、少年が座席に沈んでいくのが見えた。


「これよりー当機は、第4アースにむかいまーす。重力移動中はお体をできるだけ動かさないようにしてくださーい」

 ベイズの声で不自然なアナウンスが流れた。次の瞬間。シルヴィアが隣をむくと、


スイセイが割れている。

 ところどころ、頭だとか手だとか分かる部分はあるが、中身も割れて、椅子の下や上にさんらんしている。

「ス、スイセイ。」

「…」

 返事がない。ただの氷だ。

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