8.月の裏
ツキヨという人物がどうしてここまで嫌われているのか、それを先に説明しておくべきだろう。
ツキヨたち、ライと呼ばれる一族は王族の次に影響力のある一族で、エレメトと同じくらい長い歴史がある。その中でも一番長いこといるのがツキヨとスイセイである。
ツキヨは、自身でエネルギーを作り出すタイプで、記憶力がよくない。また、感情もない。
スイセイは、自身にエネルギーをためるタイプ。記憶力はエバーワールダーでもトップクラス。温度によって感情の起伏が変化する。
一番嫌われている理由として取り上げられるのは、オーブを多く所有していることだろう。
オーブはエバーワールダーが死を迎えた時に残す、自身の結晶で、それに光や熱などのエネルギーをあたえることで、活性化し、そのエバーワールダーのギフトを行使することができる。
それをツキヨは多く所有している。
よく行使しているものを上げてみよう。
テレポーテーション。
これは劇中、スイセイも使用している。
重力操作。
マモリが空を移動する際に使用したものと同じ、ヤマメのものである。
自分以外の動作を完全に止める。
第零章では、英世の王、ロイスのギフトである「蝕」を手に入れていたが、それを行使したことはない。
ツキヨは自身がしたことを全て覚えているわけではないので、他にいやな目を向けられても平然としている。そもそも悲しんだり、傷める心がない。
平然と、誰でも生きたままオーブに収めてしまうこともできる。
血など、流れるものは異なるが、家族意識のある者から一つ、一人奪うことなど自分が必要だからという理由で簡単に取り上げる。それがツキヨ。
なので、ツキヨにギフトを知られてはいけないという風潮が流れている。
場面は変わって、アライザ図書館。ミキ・ツルホが尋ねていた。
「あれ、スイセイいないの?」
アライザ図書館は中央にある二重らせんの階段が上階下階の唯一行き来できる手段だが、重力移動のオーブを持っている奴からしたらそんなもの意味のない、雰囲気を味わうためだけのものにすぎないので、エレベーターのように垂直落下してくる。
「スイセイなら、学校だよ」
「あら、まだマルーリさんに渡すものでもあったのかしら」
「放心状態で、向かっていったよ。そしたらマモリに連れてかれた」
「ああ、そうなんですか。でしたら今日は失礼します。明日にでもきますね」
ツルホの左腕がその場に固まる。ツキヨの大理石の指と重さのない手のひらが左腕をつかんでいる。
「な、なんですか?」
みえている片目だけで、ツルホを凝視する。
「いかさま風呂敷ねえ。自分では仕組み分かってないンだ」
ツキヨは服や、手袋から出ている部分以外は風船のように質量がないはずなのに、もがこうとも、一ミリも動かない。
「は、放してください。」
ツルホも抵抗するため、右手でポケットに入れている風呂敷を取ろうとした。すこしでも、風呂敷に触れさせすれば四次元の中に入ってしまうはずだからだ。
「まアいいじゃん。すこしお茶でもしよう。スイセイならもうすぐ帰ってくるだろうし。」
「えいっ」
ツキヨに風呂敷をかぶせるが、風呂敷がツキヨに沿って、皺を作っており曲がるだけだ。
「え、なんで入らないの!?」
「あなた如きじゃ、ボクを理解することはできないからだよ。」
顔が風呂敷で覆われていながらも、風呂敷をつまんでいたツルホの右手首をツキヨが左手でつかんだ。
風呂敷の下で、隠された右目が光った。
「ずっと、狙ってた。スイセイがいる前じゃ絶対にできないからね」
ツキヨが左腕を下げればツルホの右手も下がり、風呂敷が下ろされた。
ツキヨの右目は眩くひかり、ツルホを飲み込んだ。
その日から、スイセイは戻ってこなかった。
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