7.調和と不調和
シルヴィアが再び目を覚ましたのは、学校の一室だった。すみにはコロがスイセイと会話しており、シルヴィアの隣ではマモリが頭を悩ませていた。
「おや、起きたか。」
「なんで私がここに」
「我々の王様が、そうさせたんだ。あそこにいるスイセイもな。今度マルーリさんに叱っていただくよ」
マモリはため息を吐いた。(吐くような息も吸っていないが)
シルヴィアはそれより大事なことがある。
「ドラコ!ドラコをどこにやったんだ!!」
マモリは急なシルヴィアの大声に、顔をしかめながら肩に手を置いた。
「落ち着いてくれ。確かに森を出てはいるが、必ず戻ってくる。海岸の方に足を探しに行ってくれたんだ」
「足?」
「そりゃもう、沢山。この前シルヴィーのことを紹介したら、気になるって言われてね。シルヴィーは森外にでれないだろ?それにドラコもその相手に納得しなくては。というわけで出向いていただいた。私からシルヴィーへの祝福
だ。」
シルヴィアは何を言っているかよくわからず、マモリの顔を見ていた。二人は幼馴染で、シルヴィアが箱入り娘、マモリは親ぐるみで昔からの友人なのでよく会いに。社会経験が豊富なのと、そうでない二人だ。
年は、マモリがシルヴィアとドラコニズルのシンクロをした姿である、シルヴィア・ドラコニズル・シャーンと同い年である。
さて、コロはスイセイにマルーリの良さを演説していた。スイセイは同意の言葉を連呼して、自身が若干溶け始めているのに気が付いていない。
「何がいいって、自分の子がいるのにも関わらず、この星にとどまって、果てはそこの恩人の子供、まあ、私なんだけど。を育て上げちゃうところ!!」
「わかるー!!あ、でも先代ともう一人の片親って誰なんでしょね」
「そう、それ。私はリンの髪が茶髪でマルーリさんと同じくらいライラックな色だから、マルーリさんかなーって踏んでるんだけど。マルーリさんであって欲しいなあ…」
「昨日一晩で読んだ、マルーリさんの自伝にはそういうとこは書かれてませんでした。ですが、本当にそれくらい先代と仲がよろしかったようで。」
「コロ、あまりスイセイを興奮させてはダメだ。本当にもどれなくなるかもしれない」
マモリがそうやって、たまに口をはさんでスイセイを杖一振りで凍らせた。
宝石たちは、スイセイの手から湧き出した本を熱心に読んでいる。
コロは、スイセイの言葉の調子が堅苦しいものにまた戻った時、マモリの方に向き直った。足も閉じて、脇も閉めて、これぞ気品あふれる立ち姿なポーズをした。
「マモリ、彼を紹介してくれ。」
「彼?」
マモリはコロに片手を上げて、
「やめてくれ、命令は。私は近くにおらずとも従者なのだから。ちょっと待ってくれ」
首に巻かれたスカーフを外すと、赤であるはずのジャージにオレンジ色が紛れている。
「ほら、ごあいさつだ」
「うん」
子供の落書きがしゃべっているので、それを見たスイセイとシルヴィアは固まった。
落書きはマモリの胸元から飛び降りるなか、形が人型になっていった。
スイセイは目を疑った。これほどのスピードで変身することができるのは一人しかいなかったはずだからだ。それと、オレンジ色の髪と、自分と同じ色の瞳が信じられなかった。
変身と一緒に足が付くと、オレンジの子供は自己紹介した。
「ベイズ、っていいます。よろしくおねがいします」
「本当は名前を付ける前にスイセイに相談したかったが、機会に乏しくてな。
マルーリにも言えていない。」
「それって、まさか」
「ご存知。フヨウの分かれた姿の一つだ」
スイセイの顔が引きつる。
先に、シンクロだとか、分かれるだとかの言葉が出てきたので改めて説明させていただく。
エバーワールダーは、精神の自己防衛や、能力の解釈違いなどで、体がさけて、全く違う自分同士を生み出すことがある。これが分かれる。
だが、逆もあり、心が通じ合い、互いに信じあえるもの同士だと変身のような感覚で体が一体になる。これがシンクロ。中にはシンクロをすると、感傷的になってしまうからしないほうがいいという人物もいる。
シルヴィアも分かれてしまった例の一つだが、仲のいい兄弟のままであるので弟のドラコといまだシンクロすることができる。
「バイサーバの花の名をつけようと思ったが、私は詳しくないものでな。不確かなものはないかと、シルヴィーに尋ねてベイズの定理というのを教えてもらったんだ。それでベイズ」
シルヴィアはその時のことを思い出そうとして、眉間に皺を作った。
スイセイはベイズのことをまじまじと見ている。
「本当だ、純ハーモニウムの体だ。」
「きほんすいそすいそれにまじってみずにとけやすいきたいがまじってる」
ベイズはスイセイの目を見つめて一息で言った。
「よくわかったね」
スイセイは苦笑いした。
「片割れは?」
スイセイの問いかけにマモリは、部屋の一角の集められた紙の束に向かって杖を振った。一部がマモリにむかって飛んでくる。紙の一面をスイセイに見えるように広げると、スイセイはまた問いかけた。
「また、英世の情勢がわるいのか」
「いや、英世ではなく、英世が4つに分裂したものの一つ、南英世の状況がとてつもなく悪い。片割れは北英世にひとまず逃げてもらったが、そもそもグリマラから英世に行くには南英世側にまず、いかなければならなくなったのは、貴様の同居人の仕業だ。業が深い」
ベイズの方を向きなおし、スイセイはまた、瞳を見つめた。
「英世の方でもう一人を保護しているのは?」
「フヨウの弟分だ。クルクマ。二人連れて行くのは無理というわけで、私に頼んだ。念晶も渡された。」
「ああ、そういえば最近のライ族の会合に出てないですね。クルクマさん」
「もっとわかりやすい行動とかあっただろ。ちょいとポンコツだな」
「それで、このちっちゃなベイズが、何をするんですか」
「星渡り、というところか。師がどこのどの星にいるかは大体目星がついているのだ。」
コロは、「さっすがマモリ」と満面の笑みで合いの手を入れる。
「遠いようで近い星があったので、そこに探りを入れたところ、その星で大体1000年くらい生きているという噂の人物像を見つけることができた。」
「なんでそんなことが言いきれる」
「絵画から写真への移行する中で、何度も被写体になるほどの人物がいたんだよ。そんなのうちの師しかいないじゃないか」
スイセイは口から笑いが口から溢れないように塞いだ。
「前から思っていたが、エレメトの一族は周りをペドフィリアにする能力でも持っているのか?」
シルヴィアが肩の力を抜いて言う。
二人の反応を気にせず、マモリは話を進める。
「ベイズには、その星でヤマメを探してきてもらう。それで…一緒に行ってもらう人が欲しくてな」
二人の顔色をうかがう
「それで、あんな手を?」
シルヴィアが眉間に皺を刻みつつ言った。
「あれは、私が呼び出すってマモリにいったんだよ。まあ、いい手ではなかったよね。」
コロが手袋をいじりながら言う。
「いや、無理ならいいんだ。ベイズ一人でも異星人になじめるぐらいの教育はしてある」
シルヴィアは「どういう教育だよ」とつぶやいたあと、
「私が行こう。そのかわり、ヤマメさんから絞り出すからな」
「いやいや、シルヴィア姫、何故ヤマメさんを星から救い出すか訳をきかなくてもいいのか?」
「私はヤマメに聞きたいことがある。だから行く」
「マモリさん!!」
マモリは深呼吸してから、コロを見た。コロに話すよう促したのだ。
「うーんと、本格的にツキヨの行動を制限しようと思ってね。そのためにはヤマメの手記の続きが必要なんだ。」
ヤマメの手記というのは、第零章で発見された、表紙にオーバーヒートと書かれた書きかけのノートのこと。
今もマルーリが蔵書の中に紛れ込ませていることだろう。
内容はマモリも知っている。コロも偶然をそれを読んだ。そして、シルヴィアにはヤマメがいなければ真実を知ることはできないと言っている。
「うっ、記憶から消してしまいたい。そんな計画が私を通して、ツキヨに知られてしまったら、」
コロはパチンと指を鳴らした。宝石たちがスイセイを向く。
「大丈夫。私がいる。もしくはあんたがよく連れてる人の風呂敷の中にでもいたらいいんじゃないか?」
スイセイは頭を抱えて、
「私もベイズと行ってはいけないのか?異星人の文化には興味もあるし、他の星にすぎないが、知識もある。」
「構わない。それで呼んだんだからな。それにそっちのほうが都合がいい。」
そう言った後、コロがスイセイの後ろに結んである髪を握り、後ろに引っ張った。
「痛い!」
「あーごめん。そろそろベイズ坊やに近すぎると思ってね」
右後ろにいるコロを見上げて、眉間に皺を作って見せた。
「その子は、人の記憶を読み取る。あんたみたいにいちいち文字にしなくてもな。下手したら廃人になる。だからできるだけ接触しないほうがいい。」
「マモリさんは、ずっと胸元に入れたり、手握ったりしてたじゃないか」
マモリは人差し指で自身の頭をコツコツとたたいてから
「私を誰だと思ってる。元素魔法のスペシャリストだぞ。接触している部分を強制的に変化させて、読み込めないようにしているのだよ。今日の授業でそこまで言おうと思っていたのに誰かさんのせいで」
コロがスイセイから手を放して、両手を上にあげる。
「いやーごめんって!!私はすごくいい手段だと思ってたんだから。まさかマモリに迷惑かけるなんてこれっぽちも考えてないんだから!」
コロの理想は、連鎖の平和。
ハーモニウムとディスハーモニウムの存在するこの星では平和への最高の手段は、これの属する調和と不調和を交互に起こすことだと、コロは考えている。
だからといって、フヨウの分かれた姿である、ベイズとベイズの片割れがそれになるとは少しも思っていない。調和は彼らかもしれないが、不調和はもっと高みにあるのだと、コロは予想している。そこへ行き着くには身近な不調和を鎮める必要がある。
それが、ツキヨだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます