マルーリとして
雨は続いた。ライトビなりの別れの態度なのだろうか、雨は温かいものだった。
山を南の方に降り、ホウライが用意した広い洞穴で葬式のようなものは行われた。
カゴウの方達と用意した飲み物や料理は、グリマラ史上最も優れた物になり、長になったサトム達の演奏は拍手がなりやまなかった。
たった一つ遺された王の一部、左手は片時も離れず私のうでのなかにあった。
公爵はシルヴィアともドラコニズルにも似た子を連れて会場にやってきた。
「また小さくなったな、弟よ」
相変わらず片手にワイングラスを持っているが中身は青色だった。そのまま連れを紹介してくれた。
「こちらシルヴィア·ドラコニズル。諸事情でね、二人にシンクロしてもらってから連れてきた」
「オイラは貴方を知ってるけどね」
面と向かえば、私と同じくらいの背丈である、公爵とは似ない田舎者は首の後ろの方から触手を出していた。いつぞやのシルヴィアと同じように、ストローが刺されたコップを持っている。
公爵は自分たちの子供時代のことを話してはくれたが、脱線に次ぐ脱線で何がなんだか伝わって来なかった。
黒服に身を包んだカルーナときたら、四つある目が全て涙を流しているので一人で溺れていた。
奥の方では、怪鳥のキョーマが囲まれている。そう見えるが次の瞬間には別のものが囲まれていて、本当は何が囲まれているか分からなかった。
サトムは人を探しているようで、演奏者の二人を連れ、目を閉じて歩き回っている。
王族による昔話を聞いている群衆を抜けて、サトムの方に向かった。
「サトム!」
呼ぶと、サトムがまず振り返り、そのあとに左右の黒ずくめが振り返った。
「マルーリさんですね。ちょうど良かった、フヨウ先生を知りませんか。この頃連絡が取れずにいるのです。今回であればお目にかかれると思ったのですが、どうにも見当たらないのです」
ふと、悪寒が走った。フヨウは二度と世間に顔見せしないと言ったらどうなるだろうか。ツキヨに口封じはされていないが話すべきか話さないべきか。
「実は、私も最近会えてないんだ。姿を眩ましたみたいで」
「…そうですか。早いところこれを直していただきたいんですがね」
瞼に触れながら言った。
「では、何か演奏しましょうか。」
「ああ」
カルーナの方を見て(まだ泣いてる)、どういうものがいいかすぐに決めた。
「心揺さぶる感じの曲をお願い」
「わかりました。皆さん!ソウルです!ソウルテンポやりますよ」
サトムの注意が他に散らばった演奏者達の方に向くと、私はすぐに洞穴の外に向かった。洞穴の外には、ホウライ、ガロウ、マモリがいて、それぞれ宙を見つめたり頭を抱えたりしている。
カルーナに用意してもらった私の黒いフロックコートはじわじわと重くなった。
明日からやらなければいけないことが沢山ある。私が自分で遺しておきたい部分はこれで終わり。十数年、業務に追われ、それが終わったときには、これをスイセイに渡し保管させるつもりだ。
後継者に渡す用、グリマラに住む全ての人に読んでもらう用。
私はこの星を出ることは決してないだろう。だから、いつでもいるはずだ。
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