別れ


 それから数日後、開け放たれた玄関にガロウとマモリが降り立った。どういうわけか空を飛んで来たようだった。

 王の側を離れて、二人の元に急ぐ。

 外は雨だったのかガロウの髪の火が燻っている。マモリも髪がぺしゃんこに張り付き、後頭部にも顔があるように見えた。

「どうでした」

 その問いに対して、二人は玄関の外を指差した。やはり雨が葉を通して落ちてきている。だが、雨ごときで捜査を辞める二人ではないだろう。

 二人の顔を交互に見ていると、

 ドザアアアアン 大きなものが落ちる音が聞こえた。

「浮いていたヤマメの家が落ちた。最後に探したんだ。」

「浮いている力が弱くなっていたので、戻ってきました。それにこれでもう、師は見つからなくなってしまいました」

 それが、ヤマメの家が落ちてくることと関わりがあるのかよく、私には分からなかったが。おそらく、ヤマメが遠くにいくとヤマメのギフトの効果を受けていたものは、効果が切れてしまうのだろう。そして、こう落ちてきたということは、ヤマメは何処か遠くへいってしまったということだ。

 ガロウは膝から崩れるようにその場に腰をついた。マモリはガロウの肩に腕をまわした。

 二人は深く傷ついた。それはまだ伝染するだろう。ヤマメの弟のホウライ、ヤマメの食料を作っていたガロウの家族。


 そして、更なる悲しみにグリマラは包まれることだろう。




 次の日も雨は止まず、樹の葉をとおして町には雨が注がれた。

 ガロウとマモリは、ヤマメの家から本や食器、実験器具のようなものを出していた。最後に書きかけのノートが出てきた。表紙にはオーバーヒートと書かれている。

 ガロウのことだろうか、と思ったが三人で囲んで開いて見て全く別のものだと分かった。そのなかには恋文でも日記でもない、ヤマメとホウライの実体験が書かれていた。始めの方を読むだけで随分大昔のことだと分かった。だが、今は内容の読解より、床にふせった王だろう。


 このヤマメのノートのことを王にも話そうと王の部屋に入った。

「王!ヤマメの物にこんなものが」

 王は表紙を見るなり、ガロウの方を向いたが内容を聞かせると、目を閉じた。

「あの二人が、ツキヨのことを嫌いな理由が分かったな」

「それが完成品でないのが悔しい」と言うと、私に近くにこいと言った。

「マルーリ、貴方はこれからマルーリだ。私の後継者の為にコロという名を頂く。」

 マモリが後継者と聞いて、顔をしかめたが王はそのまま話を続けた。

「手を」

 掛け布団の上に出された王の動かない手に、右手を重ねる。ゴム質で小さな鱗を敷き詰めたような感触だ。

 王の方に向き直る。

「私はすべて貴方に託した。思い残すことはない。貴方なら国を任せられる。」

 目を深く閉じてから、こちらを優しく見つめて、

「最後に、貴方に出会えてよかった。」

 口のはしを伸ばして微笑んだあと、王の体は崩れ始めた。

 掛け布団に隠された方からグスグスと落ち始め、肩の方まで延びてくると王の着ている服だけを遺して、消えていくのが分かった。

 最後にまた、私の方を見て微笑むと王の頭は重ねた手だけを遺して消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る