複雑怪奇なフヨウ

 存分に撫でまわしたころ、日が上がり始めていることに気づく。

「ふにゅー」

 王はすっかり伸びている。 毛皮の下は柔らかいので頬をあげてみる。

 フフ、間抜けなかおだ。

「失礼なこと思ったね」

「あ、すいませんつい」

「フヨウそろそろ来たかな。兄貴たちが起きる前に出よう」

「いいんですか」

「やることはやったからね。」

 鼻を下にして、私を空中に飛ばす。首元に着地させると、前足と後ろ足をバタつかせて階段を降りる。

 降りると二足歩行の姿勢になって扉を開く。

「外には誰もいないか。」


 何事もなくホテルの門を出ると王はもとの姿に戻り、私はおぶられていた。

「ココ~こっちだよ~」

 林の奥でフヨウが手を振るのが見えて、王は私をおぶったままフヨウの方へむかう。

「いや、自分で歩きますけど」

「あ、ごめん、昨日の感じでおぶってた」

 渋い顔をしたフヨウは吐くような動作をした。

「俺のなかでそういうことするなよ!」

「ライの連中は、本当嫌いだよな。シンクロとか」

「うえーっ、あんなのセンチメンタルになっちゃうだけだよ。今の自分が俺は好きだ」

王は口に手を当てて笑う。


「それで、フヨウはどうだった?」

「第一アースにいった連中は戻ってこれそうだが、その後戦況が恐らくきつくなる。それでどちらを捨てるか、ココに決めさせるってことだった。」

 王は真面目な顔をして聞き入る。

「私だけでは決められないだろう。カルーナや、ヤージョ、港の方にも確認をとらなければ」

「そういうだろうと思ってね、向こうにいってるセキウも今度呼び出すって」

「第一アースにいっている二人が戻ってきたら行動をとるか」

「それでなんだけどね」

 話の変わり目に王が目を大きくする。

「スターラインの急流に水車と、山の中腹に地熱発電、ホワイトウィンに風力発電を完備させたい」

「すいしゃ?ちねつはつでん?」

 腕を組んでとぼけた声を出される。

「電気を作る施設ですよ」

 こちらにも眉を歪めた顔を向ける。

「なんとなく何がしたいか、わかってはいる。どうせ、あちこちに電気の供給所をつくるってだろ。別にいいんだけどね。それって、一つの場所が壊され、それがもし夜だったらみーんな朝までそこら辺で倒れてるってことがあるかもしれないんだよね」

 4輪の回転が速くなって掛かるプレッシャーが大きくなる。

「それを考慮して俺が作るっていってんだよ!」

 ひっくり返るんじゃないかってぐらいに後輪が振り回される。一体どこでそんな運転覚えたんだ。王に片腕でで捕まえられていなかったら危なかった。船のときと同じような惨状になってしまう。

「わかったから、もう少し落ち着いて移動してくれ。危なっかしいんだよ。また、クリーニングしてきたな」

 前に聞いた物覚えが良くない複雑怪奇と関連していることだろうか。

「王、体重いくらですか。」

「10トンくらい」

 それを担ぎ上げていた私は既にトータリアンではないようだ。


 昨日のうちに十分に充電していたお陰で王を無事寝室に運び込めた私は、自分の部屋で頭を休めることにした。

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