ライトビ里とドラコニズル

「ライトビ里に行くよ。」

 フヨウからもらったのか手持ちの電球を顔に向けられている。目をすぼませて王の腕をどける。

「ひどいモーニングコールだ…なんだって二日連続で外にでなければならないんですか。」

ライトビ里は、山の麓北東に位置する丘だ。やたらと霧が立ち込めている場所だと私は覚えている。

「一昨日、シルヴィアに会っただろ。ドラコニズルが来たんだ」

「なにいってんですか。彼女はシルヴィア·ドラコニズルですよ」

「まあ、見た方が早いか。ドラコ入りなさい」

 人がベットでまだ足を伸ばしてるというのに見知らぬ人を部屋にいれるやつがあるか。ドアが開くときに眼鏡に手を伸ばす。視界が曇る頃にはドアの前に、金髪の大きすぎるセーター姿の少年が立っていた。なるほど目元がシルヴィアと同じだ。だが、身長は低いようだ。

「お初に御目にかかります、シルヴィア·ドラコニズル·シャーンです。」

「何故同姓同名なの?」

「二人分の名前つけるのが面倒だったらしい。弟に見えるからミドルネームをとってドラコって呼ばれてる。」

 真ん中にまとめた前髪がピョコピョコ動く。ヤマメくらい小さければ可愛いものだが、生意気な年頃に見える。

 一息入れて、ベッドから降りる。

「人の部屋に長いこといるものじゃないですよ。用があるんなら早いところライトビ里にいきましょう」


 今回向かうのはフヨウ無しでヤマメが連れていってくれるようだ。マットを敷いた上に三人が座ってヤマメがそれを操縦というかんじ。ヤマメは相変わらず宙を浮いている。目的地のライトビ里は、天気工場らしい。天気なんてものは自然が作るものだと思っていたがどうも違うらしい。


 ライトビ里のある丘には工場という堅苦しいものではなく、民家にあたるものが建っている。

 民家の近くに降り立つと、玄関から人が出てくる。白い髪を後ろに束ねた古風な人だ。

「なんでごぜーましょうか殿」

「今日の注文はドラコからなんだ。聞いてやってくれ」

「はい。皇子さまでごぜーますね。」

 ドラコが前に出て話し出す。二人の会話を聞こえないように王が話しかける。

「天気の作り方は、私たちの住んでいるあの木が鍵になってるんだ。なんでもあれで気圧とかを調整するらしい。つまりまだ発見されてない島や大陸をあいつら知ってるみたいなんだ。どこにあるか絶対に教えてはくれないけどね」

「秘密主義なんですね」 

 肩をすくめる仕草を見せる。ドラコはどういう事情で天気を変えたいか説明しているようだ。ところで、なぜその父親のドゥブラが来ず、代わりに小さな(ヤマメより大きい)ドラコが来るのか。不思議に思っているのは私だけのようで、この場にドラコがいるのを当然だと思っているようだ。後ろに待機しているヤマメも。

 隣を陣取った王に肘を当てる。

「あー、そうだね、兄貴はめんどく下がりで自分が好きなことしかしないんだ。掃除、子守り、食事、散歩ぐらいしか自分で進んでやらないよ。多分、ドラコは好きなお菓子でも上げるとか言われたんじゃないかな。彼、甘いのが大好きだからね。」

「私は愛だけど」と付け加えられた。


 ドラコは丘で別れた。森にさえ入れれば城に帰れるからだそうだ。帰りは同じようにヤマメの操るマットで帰った。ヤマメになぜ少し距離をおいていたのかと聞くと、「ライトビの連中の堅苦しさが嫌いだから」眼鏡つきの私と変わらないだろう。

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