眠りの守り手

 目がはっきりと覚める。まだ夜中のようでほんのりとした暗さがある。ほんのりとしたというからには灯りがあるのだが…


 部屋を見渡すと、ヤマメとガロウ、そして知らない子がいる。下に真っ逆さまに落ちた長い桃色の髪を持っている。

 その人物に驚く私にヤマメが微笑んでから小さな声で話しかける。

「この子はモモワちゃん。人の寝ている時の夢を監視するギフト。モモワちゃんはガロウ君の弟子だよ」

「こんばんわ」

 暗い雰囲気のモモワは、夢で最後に聞いた声と同じだが、とても同じような人物に思えない。

「あんたを助けたのは昼のあたし。ひどい悪夢だったから強制終了させたわ。」

 二重人格なのだろうか。

「わざわざそれを報告しに来てくれたんですか」

「先生からも心配だって聞いていて、その人が悪夢見て苦しみそうだったんだもの。起きたとき安心させたいわって昼のあたしは言うだろうな。」

 ヤマメは後ろで寝ているガロウの炎の髪で茶を沸かして、淹れている。

「のんどくといいよ。これはスノズヴァっていうエイリアンのお茶で体がすごく暖まるんだって」

モモワを経由して戴く。

「寝ていても昼のあたしが守ってくれるから、安心して寝て。」

 スノズヴァのお茶は、根菜特有の辛味があった。




 朝、起きてみると昨晩のモモワがこれまでの王のポジションにいた。だが、昨晩のモモワとは雰囲気が違う。明るい。髪もくるくると絡み合って綿あめのようにふわふわしている。

 ぱぁっと朝日に向かって開く花のような明るさだ。

「昼のモモワさん?」

 微笑んで頷く。

「ヤマメとガロウさんは部屋の外にいるんでしょうか」

「そうだね。船の解体の手伝いっていってたよ。」

「船を…ですか。」

 部屋の戸を開けて、玄関の方を見てみると重たい扉が開いてそこから大きな重厚な音が響いている。



「な、なにやってんですか!」

 最近の人生で一番の大声を出した。


 階段を使わず二階の手すりを飛び越え一階に着地する。

 扉から見えたのは既に天井がとられ、雨ざらしになっている船だった。

 立ち竦む私に気づいたヤマメが鉄屑を圧縮している手を休めてこちらにやって来る。

「フヨウのやつが船の仕組み調べるっていいはじめて、今フヨウはハーモニウムでコピー作ってるよ。」


 別に、あってもなくても構わないと思っていたものだが、あれは仲間の物を処分するまで壊すつもりはなかった。

「それと中から見つかったやつはあとでコロに聞くっていってたよ。あ、ガロウ君はボーエンで待ってるから。」

 思考がまとまらず、ボーッとしたままボーエンへの足を進めた。麻痺したようなピリピリとした感覚があったが引っ張られるみたいに行った。


 後ろでモモワとヤマメの会話が聞こえた

「あ、ヤマメさん見ました?あの人」

「何を?」

「2階の手すりからきれいな着地をしたんですよ!」

「あー、へーっ、コロって実は凄いやつなのかもな。」

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