まめなコンソメスープ
町に着く頃には、王は動かなくなっていて、フヨウから出すときには私が甲を外して背中におぶることになった。
想像していたより重い。私も相当の筋力はあるはずだが…、口元にグッと力が入る。
「船の中にも調理台はあるか」
ガロウが尋ねる。今の状況を見てくれ。歯ぎしりしながら、
「勿論」
何とか答えた。
「じゃあそこに王を運びこも!」
浮いてウキウキのヤマメが言った。ヤマメなら簡単に王を浮かせられるのだろうが、まあ空腹で力が入らないんだろ。我慢我慢…
王を担いだまま船に入り、船の明かりをつける。急に王の体が柔らかくなる。
「うわっ、え、まだ夜でしょ。なんで」
「ほんとこの電気ってやつ便利だな!早くグリマラで実用的なものにすれば、海外にも売り出せて大儲けだろうな!」
フヨウの夜に響く美声の中、貰ってきた食材をいくつかガロウが船の調理台に並べていく。
食材の中にはしっかり豆が入っている。
「色豆は、ゆでた方が良さそうだが、この丸いやつはどうするかな」
丸いやつの正体は大豆だ。そのままだと固いが、豆じたい初めてなんだろう。
ヤマメがガロウの目線に浮いてならび一粒口にいれる。
ゴリゴリと、すりつぶす音を口の中で出す。エバーワールダーに唾液はそんざいするのか?
「これが肉の代用品かー、まあ僕はカロリー重視だから。どうとでも作っちゃってよ」
口から粉を噴き出しながら言った。
可愛げがあるが、昨日の甘過ぎるパンを思い出したのでガロウの隣に移動して、袖をまくり、眼鏡を頭に駆ける。
「お、雰囲気変わった。」
「俺は味がいいのがいい。食わせるのならうまい方があんたもいいだろう。」
鈴の目をガロウに向ける。
静かに頷いて
「間違いない」
奥のヤマメは口をとんがらせる。
「大豆は、調味料にすることができる。無闇につかうべきじゃない」
「調味料にできるのは心強いな。いくらか残そう。」
大豆の入った麻袋5つのうち4つをはなれたところに移す。
「豆はそのままでも食えるものがあるがーゆでた方が食いやすい。サラダとかスープがいいだろうな」
「スープにするか。どうしたらいい」
「野菜を頂いているから、それもいれる。風味が強いのを中心に、塩と胡椒で調節してな」
「なるほど」
眼鏡のない私の小言をすこしだって気にしなかったガロウは、驚くほど手際よく完璧なコンソメスープを作り出した。
電球の仕組みをすっかり覚えたフヨウと夜の暗闇に目を落としていた王が船室の奥に入ってくる。
「うわぁ!始めて体験する香りー。食事できた?」
「お前も食うつもりなの?」
「いいじゃん!ヤマメばかり美味しいって感情体感してずるいよー」
「僕はカロリーが必要なの!」
スープ皿を人数分用意してそれぞれに一人分注ぐ。椅子についている3人に先に皿を配る。
「まずはその皿を空にしろ。ちびのカワイコチャンの為に、まだまだ用意してある」
「カワイコチャンって何さ!コロを返せ!」
「何この、別人!。一寸前までいた丁寧なポニーテール瓶底眼鏡は?」
王が厳かに一口スープを飲む。
「美味しいね、これ」
「コロさんの指示がよかったんですよ」
全員分の皿を配膳したので私も椅子に座る。
手を合わせ、この食事を作るために犠牲になった自身の仲間たちに感謝する。眼鏡をもとあるべき場所に戻して食事を始めた。
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