言霊
光矢野 大神
第1話言霊
部屋の中に酒の匂いとおツマミの匂いが充満してきた。
お酒の飲めない僕はその匂いにいち早く気づいて少し窓を開けた。開けた窓から少し温かい風が部屋に入ってきたが、酒臭くなるよりかは良かった。
大学の友達と部屋の中で飲み始めて2時間ぐらい経った時だった。僕はお酒が飲めないから皆のたわいない話を肴にして飯を食べていた時のことだった。
「なぁ、もう恋愛話とかいいからさぁ、誰か怖い話してよ。身も毛もよだつような恐ろしい話をな」
部屋の中に居る1人が酔った勢いで言った。
怖い話かー、俺は知らないな。
今までの人生の中で霊感があったことがないから、怖い話はいつも聞く専門だった。
「おーい、誰か取っておきの怖い話ないのかよ!なぁ国見?」
俺に振るなよ...
「別にあんまりないけどなー」
「えー、なんかあるでしょ、なんでもいいから話してよ」
「俺も国見の怖い話聞きたーい」
「俺も、俺も聞きたい」
部屋の雰囲気が俺が怖い話をするようになってしまっていた。
こうなるともう話さないと次の話にならない。
俺は、少し考えた末にほら話をする事にした。
怖かったらなんでもいいだろうし、皆が満足いけばそれでいいだろうと思って喋り出した。
「じゃあ、取っておきの話を話してやるよ」
「おー、パチパチパチ」
「この話は、このアパートの大家さんから聞いた話なんだけどな...」
嘘だと気づかれないように、真剣な眼差しと重い口調で語った。
「このアパートの裏の駐輪場あるじゃない?」
皆が「あるな」と頷く。
「あそこで何年か前にカップルが痴話喧嘩をしてたんだって。普段なら直ぐに終わるような話だったんだけどその日は特別男の方が酔っ払ってて、女と酷く揉めてしまってたらしくて、そして酔った勢いで男は車に乗ってその女を轢き殺したそうなんだよ...」
皆真剣に聞いている。どうやら嘘と思っている人は居ないようだ。
「そして、そこの駐車場では轢かれた女の霊が今もうろついているそうです」
これぐらいでいいだろう。程々に怖い感じだしね。
「うわぁー、もう夜にあそこの前通れねぇよ」
「女の人可哀想だな」
皆各々の感想を述べていた。
それから1時間ぐらいが過ぎ、飲みの席もお開きになり、皆帰宅することになった。
「じゃあね」
「またなー」
とさよならの挨拶を言って解散となった。
アパートから皆が帰るのを見送り、部屋の片付けをしていた時だった。
「キャーーー!!」
突然部屋の外から女性の悲鳴が聞こえてきた。
突然の出来事に驚いて俺は「ビクッ!」と体を震わせた。
何が起きたか気になり俺はベランダに行き外を見てみた。
すると、裏の駐車場で何やら若い女の人と男が痴話喧嘩をしていた。男の方は酒に酔っているのが遠くから見て分かるぐらいフラフラしていた。
どこかで聞いた事あるような風景だなと思い見ていると、男が車の方に向かった。
はぁっ!と思い出した。このままだとまずい...
悪寒が走った。何とかしなくてはと思い、急いで玄関に向かった。
部屋を飛び出し急いで駐車場に向かった。
走って向かったけど間に合わなかった。
駐輪場につくともう女の人は、頭から血を流して道に倒れていた。
男は、女の人を轢いていた。
俺は、恐ろしくなりその場に立ち尽くしてしまっていた。自分が言った作り話が本当になるなんて...
その後、警察の人が来て事情聴取を受けて頭が回ってない状態で家に帰った。
それからしばらくして、俺の作った話は本当になった。
あの駐車場には、夜になると女の霊が現れると噂されるようになってしまった。
・言霊
人が言った事には霊的な力を持っていて実現することがあり、軽はずみで作り話や嘘を付くのは気をつけた方がいい。
言霊 光矢野 大神 @junia1125
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