第3話 

 元気な女の子風自己紹介した彼女は、女子の中でも小さい身体のせいか制服がぶかぶかだ。それに袖から手が出ていない状態で本当に高校生か疑われそうだ。


「そらくん」


「久しぶり」


「初めまして? だよね?」


「え?」


 もう何年もあってないということを肌で感じた。

 俺のこと覚えてないのか。


「よろしくね!」


 だんだん体温が上がって来るのが自分でもわかる。窓に映った自分は顔が紅色に染まっていて可愛らしい。平静をよそっていてもバレバレだろう。おい、隣のやつ! こっちみんな。



 知っているはずなのに、昔あんなに仲良くしてたのになんだろう。

 俺の知っている舞織ではない。



「はーい、この子はイデウラデンキの令嬢ちゃんだ。楡井は雑に扱っていいがこの子は大事に扱ってあげてな」


 先生が問題発言をすると教室のみんなは、はーい。なんて大きな声でレスポンス。はーいじゃないよ。まあ、大体こうなることはわかっていたけど。

 舞織は不思議そうな顔をしたがすぐに席に座り前を向きなおした。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」


 露骨にため息をついた俺は、机に頬をつけて怠さを主張した。視界がだいぶ低くなって舞織の背中が大きく見える。時々頭の陰から顔を出すひまわりが鬱陶しい。


 俺はひまわりが嫌いだ。


 ひまわりのように明るく何でも照らしてしまうようにギラギラしたものは俺にあわない。小さい頃は好きでいつもひまわりに囲まれていたけど、いつからか嫌いになった。

 大体俺が次期社長なんてよくわからない。俺みたいな人間が周りから注目されて複数のカメラのフラッシュや照明に囲まれる光放つ存在になんかなれるわけない。そういうのは俺じゃなくて姉さんとか…………






「――い。おーい、そらー。聞こえてるか? もうホームルーム終わったぞ?」

 鴻島君が俺の顔を覗き込みながら話しているのが見えた。もうホームルームが終わった? そんなに時間経ったのか。あまり開かない目を必死でこじ開けながら時計を見ると、長針が一番上を向いていて、その右隣の一時方向に短針がそれぞれ立っているのがかろうじて見える。


「もう解散したのか?」


 うまく状況がつかめない。帰ったのかわからないが教室に人は多くない。自己紹介前とは比にならないくらいの静けさで何となく落ち着く。見る限りだと本を読んでいる人が数人いるくらいだ。


「そーだよ。まったく苦しそうに寝ちゃってさ。なんかあったのか?」


「なんもないよ。しいて言えば君に勝手に友達面されてることくらいかな」


「嬉しいくせに」


「うるせ」


 俺はわざとらしく鼻を鳴らして立ち上がった。教室に残って本を読んでいる数人を横目で流し、教室を後にした。

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