アキラ

隣人の騒音を大家に相談した翌日、自室に呪いの紙が投げ込まれた。

隣人による悪戯か。

気にせず破り捨て自室で夕食を取っていると呼び鈴が鳴る。


ドアスコープを覗くとそこには光の加減で体が半分影に見える人が立っていた。


驚いて後ずさり、もう1度覗き込むと消えた。

幽霊や呪いは本当にあるのか。

隣人は恐らく宗教だ。直接対峙するのは躊躇われる。若い男がいる。自分の腕力では何かあれば不利だ。

その夜何度も呼び鈴が鳴り、外に体が半分の人がそこに立った。

このまま本当に呪い殺されそうだ。

誰かに相談するにしてもこれは簡単には信じて貰えないだろう。

昔から自分は紙に書いて考えを整理する癖があり、震える指で手元のメモに「体が半分の人に殺される」と書いた。自分に何かあれば誰かがこれに気付くはずだ。しかしそこから後は思考停止してしまう。

薄暗い早朝。呼び鈴の鳴り止んだ隙にカバンを掴んで外に飛び出る。

痛む膝を押してアキラは走った。

背中から「半分の人」が追い掛けて来ているのがわかった。

一目散に向かったのは街外れの小さな神社だった。鳥居を潜った時、膝の痛みが消えた。

しかしそこでスマホをどこかで落とした事に気付く。

鳥居の外には「半分の人」がいる。

彼は鳥居の中には入って来られない。

それはわかった。

そして自分が鳥居の外に出られないことも。

睡眠不足のアキラは賽銭箱の前でへたりこむ。


目を覚ますとアキラは神社の中にいて、神主が祝詞を唱える背中を見た。夢かと思ったが現実だった。


まさに3日3晩、アキラはお祓いを受け続けていたのだった。ほぼ意識のないまま。


神主は「酷い相手でした。でも恐らくすぐに自滅することと思います」と言い、アキラに酒を飲ませた。

しかし体に力が入らず、そのまままた何日かを神社で過ごし、歩けるようになったところで外に出た。半分の人は消えていた。


警察署で無事落としたスマホを受け取り、職場と家族に「出先で倒れて入院していた、その際にスマホを壊してしまい連絡出来なかった」と嘘をついた。信じてもらえた。

そしてヒロキに会いたくて電話を掛けた。






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