自転車、その3

幽霊とは関係ない時に自転車で転んだ。

自転車は無事だったが自分は無事ではなかった。

自己判断でドラッグストアに湿布を買いに行くよりすぐそこの整形外科に行く方が早いし安心だ。土曜だが午前中なら開いているはずだ。間に合う。


初めてお世話になるそこは、リハビリ施設を兼ねた立派な整形外科だった。

酷かったのは足首の捻挫だけであとは擦り傷で済んだ。


会計待ちの時、診察室から出てきた看護師がふと驚いたような顔でこちらを見た。しかしすぐに「すいません」と言って踵を返す。人違いでもしたのだろうか。


外に出ると電柱の陰に幽霊がいた。

最初に自転車に乗せた血まみれ少女。

すれ違い様に心の中で「しばらく自転車乗れないから皆にごめんって伝えて」と念じると、耳元で「こちらこそ無理させてごめん」と囁いてきた。多分他の誰にも聞こえない声。

返事のつもりで小さく頷くと、幽霊は蒸発するように消えた。


この土日、お祭りがある。しかし捻挫した足で人の多いお祭りを楽しむ気にはなれず、スーパーで買い物をして帰宅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る