第11話 孤児院
あれからチーム「黎明」と、別れたレアはまだ屋台広場にいた。
「これ、本当に美味しいの?」
孤児院へのお土産を買うつもりで、果物を売ってる屋台の前で買うか迷った。
どぎつい蛍光紫で、割った中も黒に近い紫で毒がありそうな色の実に、釘付けになってしまったのだ。
鑑定した限りで、毒がないのは分かっている。
分かっているけど、見た目のイメージから食べる為に買うのを忌避してしまうのだ。
ただ、鑑定結果から使えると気付いてしまった。
「やっぱり嬢ちゃんも、そう思うよな?ダンジョン産なんだよこれ」
身内に、冒険者が居て頼まれダメ元で屋台に出してみたが、これっぽっちも売れない。
色合いはともかく、味は悪くはないらしい。
ただ、口の中が、真っ黒になる。
念のため鑑定もして毒なし、生食可能と鑑定結果も、店頭に分かるように置かれている。
「こりゃ放るしかねぇかな」
1個銅貨4枚と、メロン並に実が大きいから値段としては安い。
「おじさん。これ在庫いくつあるの?」
「アイテムポーチに、12個だな。屋台に乗ってんのが、ひいふうみいと、9個」
「全部で21個だね。なら全部買うから入れる箱オマケしてほしいかな」
「嬢ちゃん本当に大丈夫か?」
「私もアイテムポーチに入れるから、大丈夫」
「良いなら構わないが、全部で銅貨84枚だがオマケして80枚と、入れる箱付けるぞ」
売れない実を押し付けるようで、気まずく思ったのか、割引もしてくれた。
「おじさん。またこの実、手に入るならすぐ売らないで、しばらく貯め込んでおけば良いことあるかも」
鑑定結果で見えた実の使用方法に、食べれるだけじゃなく、染料素材に使えると表示されたのだ。
アイテムポーチ持ちなら、入れっぱなしだと腐らず保管できる。
その後、追加で房つきの前世あったプチトマトみたいな果物も購入して、こっちは孤児院に持って行くつもりだ。
なんだかんだと、色々購入してくれたレアに、屋台の店主とも、話が合い気付けば新たな知り合いを得たレアだった。
工房に戻ると、レアは配達先で受け取った受領書に手紙と、渡すよう頼まれた荷物を出して先輩職人のアレンに渡す。
「配達お疲れ様。この後は孤児院だね」
「はい。親方かオーナーいます?」
さっき見つけたダンジョン産の実、これの話をしておきたかったのだ。
虫の染料を、見つけた後にも言われたのだが、使えそうな物を見つけたら、早めに報告しろと結果がはっきりしてなくても、鑑定結果でわかったなら、他にオーナーや親方に報告するまでは、誰にも話すなと注意されたのだ。
「なんか工房会議?この近辺の工房で、急遽話し合わないといけない懸案あったらしくて、商業ギルド別館の会議室に行ってるよ」
近隣の付き合いで、会議が定期的にあるのは知っていたが、タイミング悪かったみたいだ。
「なら私が、孤児院から戻ったら話したいことあると、伝えておいてもらえますか?あとこれ貰い物ですが、工房のみんなで食べて下さい」
味見したが、やや酸っぱいが甘く美味しかったので、おすそ分けだ。
「見ない果物?だね」
「屋台の人が最近流行りの、ダンジョン産て言ってました」
見た目ライチっぽいが、殻剥いて食べた味がすっぱ甘いオレンジだった。
どぎつい蛍光の実と、孤児院向けと、色々購入したオマケとしてくれたのだ。
ついで、知り合いになったので、珍しい物が入ったら教えて貰う約束もした。
「ありがとう。後でみんなで食べるよ」
「はい。じゃあ私行ってきますね」
とりあえず伝言残したから、後で怒られないと思う。
鑑定スキルで、色々と鑑定して行けばより分かることが増えるのは、知らない知識を手に入れることでもあるから楽しい。
スレバの町の孤児院は、西側の門に近い教会に隣接している。
町にある教会は、4つあり各門の近くにある。
教会が門の近くにあるのは、昔魔族と争いがあった時の名残りだ。
魔族と争うと、瘴気と言う毒に侵されることがあり、即座に対応出来るよう、出入り口の門近くに教会を配置して治療出来るようにする為だった。
孤児院には、教会の祈りの間を通って移動する。
教会の祈りの間は、神の像が置かれているが、世界を創ったとされる、創造神は必ずどこの教会に設置されている。
副神は信仰する場所により違う。
スレバの町なら美の女神。服飾を扱っている町だかららしい。王都だと、副神は、戦神とかになるようだ。
まぁどんな教会でも、必ず複数の神像があるのでどの神を崇拝するかは、職種により自由だった。
「お久しぶりです。シスター フェルール」
獣人の赤ん坊を、抱えた女性にレアは挨拶をする。
ここの孤児院に、お世話になったのは冒険者だった両親を亡くし、10歳から15歳まで居たことになる。
最初の2年は、前世の記憶と両親の死で混乱しやすく、世話をしてくれたシスターも大変だったと思う。
「おかえりなさい。レア、貴方も元気そうね」
「はい。なんとか生活してます。その腕の子は?」
また赤ん坊が、増えた?
「この子は、両親が冒険者で仕事に行っている預かっている子よ」
捨て子ではない。
良かったと、思う。
この世界、口減らしで子を捨てざるを得ない親もいる。
この町は、福祉を充実させているから、両親が働いている時に、子供を孤児院に預けることも出来た。
「そうですか、今日はみんなにお土産持ってきました」
アイテムポーチから、購入した果物を見せる。
「いつもありがとう。レア無理は、してないわよね?」
「してません」
無理は、してないと思うが、やらかしてはいるかもしれないと思う。
「何か変わった事、ありましたか?」
孤児院には、こうして最低月1回は訪れるようにしている。
「家族が、増えたわ」
孤児院に、家族が増えたは、子供が増えたと言う事だった。
レアは、シスターの案内で孤児院へ向かう。
騒がしい子供達の声が、聞こえてくる。
預けられた子も、孤児も一緒になって遊んでいる。
「あっ、レアお姉ちゃんだ!クーも居る」
遊んでと、駆け寄って来る子も居れば、まだクーを怖がっている子も居る。
蜘蛛は、慣れないと小さな子には恐ろしく思ってしまう子がいるのも、仕方ないことだ。
「みんな今日は、果物持ってきたからおやつに食べてね」
せがまれ一緒に遊ぶが、中にはどうしてもみんなと一緒に居れない子もいる。
「あの子どうしたの?みんな」
壁にもたれ、うずくまっている子がいる。
「今は、そっとしなきゃなんだって」
レアが初めて見る子だ。
新しく入った子だろう。
鑑定するまでもなく、手の甲に焼印がある事でどう言った子か分かった。
手の甲の焼印は、魔力がないとされる子に付けられる。勿論、現在は禁止されているのだが、農村地帯など教育が行き届いてない場所では当たり前にする処置らしい。
本来、誰でも魔力を持っているのが当たり前なのだ。
それがない。
本当に、魔力がないのか気になり鑑定スキルを使ってみる。
キャスティ (6)
HP 20/20
MP ー ー
確かに、MPは表示されない。
何故、MPが表示されないのか?
状態に(呪)
気付かない内に、魔族のカケラを触ってしまったからと、表示されていた。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「お姉ちゃんね。シスター フェルールと大切なお話しなきゃならないから、クーと遊んでてくれるかな?」
赤ん坊を寝かせる部屋にいると、子供達と一緒に居る若いシスターが教えてくれた。
言われた部屋にむかうと、8人の赤ん坊が寝ている。
「シスターお聞きしたい事があるのですが」
「慌ててどうしましたレア?」
この部屋に赤ん坊と、シスター フェルール以外にも、若手のシスターが3人控えている。
話を、聞かれて良いか判断つかない。
「大事な話があるのですが、私のスキルに関して相談したいです」
「分かりました。私の部屋に行きましょう」
そこなら、誰もふいに入って来ない。
「レア、急にどうしたのですか?」
お茶を入れてもらい、どう切り出すか。
「新しく入った子を、見たのですがあの子はどう言った子ですか?」
手の甲の焼印を見て、レアが魔力なしの子と知ったから聞いたと考えたようだ。
「キャスティは、運良く保護された子よ」
教会がない場所への定期巡回で、農村部に行ったときに虐待されていたのを保護したらしい。
魔力のない忌子として、手の甲に焼印されていたと言う。
「シスター教会では、呪いの解除は可能ですか?」
「今は東区の教会に、赴任してる司祭様呼べば可能ね」
ちょっと考えてから、そう答える。
この町は、教会が4つあるのだ。司祭が、期間を決めて4つの教会を回って赴任していた。
「私は少し前に、新しいスキル鑑定が出来るようになりました。キャスティと言う子の手の甲を見て、魔力なしとはどんな者?そう考え悪いとは思ったのですが、見た状態で呪とありました」
鑑定を人にする場合は、本来する相手がして欲しいと頼んだ時だけだ。
相手の了解を得られないでするのは、かなり問題があった。
「待ってレア。キャスティが、呪われてるって言うの?」
「状態に、気付かない内に魔族のカケラを触ったからと鑑定に出ました。魔族のカケラってなんですか?」
「異物がまだ残っているなんて!」
なんてこと、とシスターが慌てている。
異物=魔族のカケラらしい。
魔族が死んだ亡骸は、石のように砕け散る。
どんな長い年月が過ぎても、見た目小さな石にしか見えない魔族のカケラを、魔力がある者が触ると、自分の持つ魔力を吸い取られ続け、呪われる。
それがキャスティの場合の、魔力なしの原因だった。
そして魔族のカケラの恐ろしい所は、ある程度の魔力を蓄えたら生ける者全てに病を感染させるように、瘴気を感染させて行くのだ。
「おお神よ。すぐに対処しないと」
「待って下さい。シスター!私が鑑定間違いをしたとも思わないんですか?」
「何を怖気ついてるのレア。自分の鑑定に、自信がないと言うなら、私を鑑定して見えた事を言って見なさい」
シスター フェルール (32)
レベル86
HP 1524/1524
MP 1358/1358
スキル
浄化、治癒、結界、剣術、格闘術
魔法
生活魔法、火魔法、水魔法、風魔法
称号
地母神の祝福、武神の祝福
状態
かなり興奮している
見たままを、シスターに告げる。
「正解よレア。後でまた工房に、連絡入れると思うから、貴方は帰って連絡するまで普通にしてなさい」
魔力なしの者を、他に見つけたらまた鑑定をお願いするとも言われた。
シスター フェルールは、東区の教会に居る司祭への手紙を書き上げ、他の教会や領主、各ギルド長と、必要な数の手紙を書いては下男を呼び速達するよう指示している。
ただ言われるしかないレアは、子供達が居る部屋に向かう途中で会った若いシスターに土産の果物を渡し、子供達からクーを回収するとまた次回も来ると約束して工房に帰った。
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