第12話 魔力なし 1
その知らせが、領主を始めとした各ギルドの代表者へ届いたのは、午後の休息時の時間帯だった。
「生きている内に、魔族関連の緊急準指定懸案とはまたぶっそうな」
さてどうしたものかと、領主ライファイト・スレバ・アーリムは領主館に集まりだした町の者に、どう話すべきか思案する。
魔族との戦いがあったのは、三代前の出来事だ。一部の長命種族なら、まだ当時を知る者が在命しているとは思うがライファイト自体、過去の出来事で歴史でしか魔族の事を知らない。
「旦那様、御来客の皆様が揃いましたので、夢幻の間へお越しください」
現在夢幻の間に居るのは、町の各ギルド代表者と警備の責任者とこの緊急準指定懸案を持ち込んだ教会のシスターだ。
「分かった。内容に寄っては、王にも連絡せねばならん。全く困ったものだ」
教会側の勇み足であれば、とは思うが魔族に関しては教会がする事に合わせなければならない。
何故、緊急で自分達が集まったのか、町のギルド代表者は分からなかった。
緊急の懸案で、教会からと言う事がまず普通ではなかった。
全員が集まった時点で、シスターフェルールが立ち上がる。
「お集まり頂きありがとうございます。何故こう集まって頂いたかは、町の皆様に魔力なしの者を探して欲しいからですわ」
魔力なしとは、神に見放された者。忌子と言った良い意味を持たぬ者達の事だ。
「先日、定期巡回のおりに農村部にて幼児の保護を致しました」
シスターは言う。
「保護した幼児は、魔力なしです。現在も、孤児院に保護しているのですが、魔力なしとなった原因が、ようやく判明致しました」
神に見放された者に、誰も見向きもしない。教会は見つければ保護し、孤児院へ入れるが今まで原因の究明などしていなかった。
「何故、緊急で集まって頂いたかは、魔族が関係しているからです。皆様は、遠い過去の出来事と思いでしょうが、魔族を倒した後も魔力なしの様な犠牲者が、今だにいると理解して欲しいのです」
理解してもらう為に、シスターは魔族を倒したとしても完全ではなかったと、倒した魔族は石の様に砕け散るが、一定の期間後に砕け散った魔族のカケラを魔力を持つ者が触ると、魔力を吸い取られ続ける為魔力がないように見えるが魔族の呪と今回分かったことを話す。
「シスター、魔力なしを探すのは分かったが、何故今になって判明した?」
領主ライファイトは、そう聞く。
「以前、孤児院に居た者が久々に訪れたんですの。その子が、何でも新しく鑑定スキルが使えるようになったが、自分の鑑定スキルに自信を持てないようでしたので、私自身を鑑定させた所、間違いのない鑑定でしたわ。その子が、魔力なしとは?と興味をもったようで、保護した幼児を私の一存で、鑑定して貰いましたの」
本来、レアが勝手にしたことだったが、シスターは、自分がする様に即したと告げる。
鑑定スキルは、人へする場合本人の許可又は保護者の許可を得ないと、してはいけないとされていたからだ。
「魔力なしの原因が、どこかで知らず魔族のカケラに触ったことによる。呪と分かりました。呪ならば、教会で解呪出来ます。ただ、まだ1人しか判明していません。本当に魔族のカケラによる魔力なしなのか、他にいる者も同じなのか、それを知る為に魔力なしの者を鑑定し直す必要があります」
シスターが言う事も、もっともだが今まで魔力なしの扱いを考えると、探し出すのは難しい。
「シスター、鑑定した者は本当に信用出来るのかね?」
冒険者ギルド長が、胡散臭そうに言う。
「なら、冒険者ギルドお抱えの鑑定師に私のステータス見えるならどうぞ確認して下さい。無理ならあの子呼び出して、皆さん見て貰えば分かりますわ」
「シスターちょっと良いかね?その鑑定した子は、レアお嬢ちゃんかのう?」
カウルじいさんが、そう聞いて来る。
商業ギルド長なので、当然この場に居た。
「あら。知ってましたか?」
「ルシ坊んとこの、見習い職人じゃな。今度、ワシんとこに仕事来るよう、ルシ坊にも伝えておる。レアお嬢ちゃんは、多分上位鑑定スキル持ちじゃ。何故って、新たな染料の発見者じゃし、本人言うにまだ他にも染料になる物見つけているようじゃな。他の鑑定師よりも、詳しく鑑定出来るのは間違いない」
鑑定に関しては、カウルじいさんも信用出来ると言う。
「ルシ坊?ああ、貴族で工房持ちの確かアナラトイム家のルシアスか」
領主と言う職柄、町の貴族の顔を全て覚えてはいた。遠戚ではあるが、挨拶程度の顔を知っているくらいかと、領主ライファイトは思う。
アナラトイム家の、第2夫人の子だが家と関わりを持ちたがらず自由気ままにしていると、報告を受けた記憶があった。
「レア嬢ちゃんはちと変わった子ではあるが、鑑定についてのウソはないと、ワシも断言して良いぞ」
そのレアと言った子も、いずれ呼び出しをするとして、魔力なしを探すのが先か。
「シスター魔力なしを見つけるのは構わないが、排斥されていた彼らをどう見つけるのだ?」
「ここはスラム、娼館、奴隷商、冒険者ギルドあたりからでしょうか。後は地味に各ギルドの受付に言わせるしかないかと、信じられない放っておきたいと言う方は、どうぞご自由に魔力を満たした魔族のカケラ、私たちは異物と呼んでますが、いずれ瘴気が病に感染させるように広がりますわ。国1つ簡単に消えてしまうほど、瘴気が拡散すれば、魔界と通じるとも言われてますし、魔力なしにされた犠牲者がどれだけいるかも分かりません。こうして発覚するのが遅れたのも、ろくに魔力なしを究明しなかったのが原因ですしね」
孤児院で、一時的に保護してもかならず15歳になれば出て行かなければならない。
普通の孤児でさえ大変なのに、魔力なしの孤児院出身者は気づけば消えている。
魔力がないだけに、普通の仕事がなく冒険者になる者がほとんどだが、借金を重ね奴隷落ちしてしまうことも多い。
生活出来ず、身体を売る者。魔力なしと言うだけで暴力を振るわれ死ぬ者。中には怪しげな儀式の犠牲者になる者と、数え上げたらきりがないほどだ。
「全てを浄化出来れば、このような問題も、発生しなかったかもしれません」
戦後から教会は、常に浄化を行なってはいたが、魔族と戦場になった国土の広さがネックになり、今だに全てを浄化出来ていない。
「どこの出身で、何歳から魔力なしと判明したのか、大変な作業になります」
今すぐの脅威ではないが、魔力なしになった原因を知りたがるのは、魔力なしと言われた本人だろう。
「魔力なしが、もし本当に魔力が戻ると言うならば、忌子ではなかったことなりますな」
忌子として排斥した者も、かなり衝撃を受けるだろう。
「魔力なしの者を、見つけ鑑定し解呪可能であると判明するならば、王に報告をする。ただ魔力なしの者を見つけ出すとなると、この場に居る者が納得出来るだけの鑑定スキル持ちか、レアと言う少女を含め、信用出来る鑑定スキル持ちがいるならば、自薦、推薦を問わない」
今すぐの脅威ではないが、瘴気が発生してからでは遅い。
瘴気に感染した者は、浄化スキルで浄化は出来るが、感染して行く速さに追いつくかも分からない。
「魔族のカケラとやらが、瘴気を出すまでがはっきり分からんしのう」
ただ救いは今現在、まだ発生していないことだけだった。
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