第9話 配達
「オーナー。頼まれた仕事は終わりました。確認お願いします」
「今回は、早いな」
仕事を頼んで3日で、出来上がっている。
指定した日時まで、2日早く終わらせた。
鑑定スキルの使い方を、自分なりに模索した結果と、必要な資料が揃っていたお陰だ。
「どんなに早くても、先方に選ばれる絵か分かりません。こっちは、思うように描けと言われたことをしただけなので、採用されなくても文句なしでお願いします」
あのぐちゃぐちゃな絵から、他に描ける人がいるなら、そっちにゆずってもいいと思うほど鑑定スキルがなかったら私はもう無理。
それに残りの色塗りは、レアがすることではないから、まだ気楽ではあった。
「今日は、孤児院に姿見せに行くので、商業ギルドで、お手伝いする日時が決まったら早めに教えてください」
ついで頼まれた工房の近所への配達は、今日はレアが当番だった。
頼まれて出来上がった服飾パーツを、別の工房に配達したり、かかった請求書とか工房の手紙や小荷物の受け取りをして一度帰宅した後に、孤児院へ行く予定だった。
肩に蜘蛛のクーを乗せ、レアはルシアスに必要な挨拶をしてから、配達の荷物や手紙を受取る。
町中とは言え、今日行く必要がある工房は五か所と、頼まれた荷物の受け取りに商業ギルド別館に行ったりと、移動する場所は多い。
必要な物は、アイテムポーチに入れたし、受け取りもアイテムポーチに入れるだけだから、まだ楽だ。
ただ魔虫の配達は、アイテムポーチに入らないから手に持つしかない。
「先に、魔虫配達二カ所」
これは、近くの工房なので早く終わるはず。
籠に入れた魔虫を、配達先の植物園に作った魔虫囲いに入れ、虫の確認と餌がわりの魔水の確認をして、気づいた注意点を相手に報告するだけだ。
配達先の工房の人と、軽く挨拶してから必要なら蜘蛛の状態も、鑑定で確認する。
「おはようございます。配達に来ました」
魔虫入りの籠は、布で包んで見えないようにしている。
受付女性と、軽く挨拶してからそのまま奥へ行き、植物園になっている小型温室に向かう。
この辺の、温室の作りはほぼどこの工房でも同じせいか、迷う事もない。
「おはようございます」
魔虫囲いの側に、この工房の職人が立って中を覗き込んでいた。
かなりダンディな人だった。
こっちの人って、かなり顔良い人多い。
「どうかしました?」
「いや、うちの蜘蛛を見ていた」
生き餌の跳虫を、食べさせていたようだ。
中を見れば、糸蜘蛛が跳虫を捕食中だった。
「気になることなら、多少は鑑定できますよ」
お得意様だ。
ちょっとしたサービスもありだろう。
先に持って来た跳虫を、囲いの中に放す。
「そうか?どうもこいつ、最近落ち着かなくて気になっていたんだ」
最近出来るようになったステータス鑑定で、囲いの中に居た蜘蛛を見る。
「ならまず状態だけ確認しますね」
レアは、健康面でのおかしな所はなく、むしろハッスル?してるくらいだ。
「体調の異常はないです」
蜘蛛のレベル9と、テイムして16年。蜘蛛って16年もテイムしたのに.まだレベル9しか上がらない?
「この子、外に最近連れ出したりしました?」
「いや特にないな。変わった事なら、工房でリボン織り出来るようになったくらいだな」
蜘蛛がスパイダーシルクを織れるようになる、前段階のリボン織りができるらしい。
リボン織りとは、まんまリボンを蜘蛛が、自分で織ることだ。
「あっ。なら蜘蛛のレベルが上がったのかな?確か私が、生き餌始めて少ししてからここも配達するようになったんですよね?」
アイテムポーチから、どこへ配達したかの記録を取り出して確認する。
毎週必ず購入してくれている。
「多分と、予想ですが生き餌与え続けたことで、蜘蛛のレベルが上がったからじゃないかと」
人だって魔物倒せば、経験値を得てレベルが
上がる。
これは当たり前に、誰だって知ってることだ。
テイムした蜘蛛だって、生き餌なら少なくても経験値が入る筈で、どんな職種の人にテイムされようが関係ない。
「そうなるとアレか、良く聞く冒険者が連れてる従魔は、レベルが上がりやすいだな」
レアは頷く。
「日頃から魔物倒しに行く冒険者に、従う従魔なら町中の人がテイムした従魔よりレベル高いのは確かです。あと蜘蛛って、レベル上がると念話出来るようになりますよね?」
「ああ。10年テイムしてれば、念話可能と聞いた事あるが、これはまだだな」
念話で、意思疎通が可能なら早くしてみたいと呟いていた。
「10年って職人のように、町中生活する者にテイムされると、冒険者と違って年1回レベルが1上がるから、10年かけてレベル10になったからとか?じゃないですよね?」
何気なく、そんな訳ないかと思うが、気になってくる。
「まさか蜘蛛は、レベル10なら念話が出来る?」
ダンディなおじさんも、蜘蛛見て呟いている。
可能性でしかないが、誰もそこまで確認した者はいない。
長くテイムして、いつの間にか念話覚えていた。
大体、テイム期間10年だなと知られているだけだ。
冒険者でもない町中生活者が、テイムした従魔にそこまで考えることは、今まではなかった。
「嬢ちゃんこいつの、レベルいくつか分かるのか?」
「レベル9です。リボン織りが最近可能になったのなら、糸蜘蛛レベル9のスキルが、リボン織りなのかな?最近なら他の糸蜘蛛と比較出来れば、スキルに対して蜘蛛のレベルを調べれば違いは分かるかもしれないです」
この蜘蛛が、妙に元気なのはレベル上がってからだと分かったし、次の配達にそろそろ行かないと時間が過ぎてしまう。
「じゃあ私もう行きますね。何かあれば連絡して下さい。鑑定くらいならまた見に来ますから」
後ろから何か声かけられていたが、残りの配達がまだまだ沢山ある為、やや小走りで移動する。
ちょっと話し込んでしまったと、もう一カ所の魔虫配達に急ぐ。
「次は、通り3つ向こうの工房で、近くに薬師ギルドあるから、蟲茸返すついでにスケッチ渡せる」
採取会で預かっていた、蟲茸のスケッチは終わっていたが、なかなか近くまで行く用がなかった為、薬師ギルドに行く日が遅くなってしまった。
特に次の工房の人と挨拶以外の話しもなく、すんなり魔虫配達は終わる。
薬師ギルドに近づいて行くと、薬の独特な香りが漂ってくる。
肩に乗るクーが落ち着きなく動く為、どうしたかと鑑定で状態を見れば、この匂いが嫌いらしい。
我慢できはするが、苦手なようだ。
「クー匂い避けに、ポッケに入ってなさい」
甘やかしてしまうが、ついで跳虫をアイテムポーチから出すと、上着のポッケに入れる。
蜘蛛を入れる為やや大きく、取り外し可能にしているせいか、洗濯も楽だ。
この匂いを、虫でも食べて誤魔化してくれればと思う。
多分、匂いの元は作っている虫除けの香が漂っているからだろう。
人なら問題ないが、クーのように匂い慣れしてない蜘蛛にはキツイのかもしれない。
「さっさと、済ませてあげないとね」
薬師ギルドに入ると、通りより更に匂いが強くなっている。
「依頼でしょうか?買取でしょうか?」
受付の女性が、にっこり笑って尋ねて来る。
「えっと、前回の採取会で預かっていた物を返却したいのですが、見習い薬師のメイとカイに渡して貰いたい場合だと、ギルドに預ければ大丈夫と言われてこの場合だと、預かって貰えばいいのかな?」
「貴方がレアさん?」
「はい?採取会で、メイとカイは同じグループでした」
クスッと、笑った受付女性はあれ見てと薬師ギルドの2階を指差す。
2階で薬草の作業をしている人達がいて、作業の手を止めたメイがジーっとこっちを見ていた。
「採取会の後から、ずっとあそこで作業して貴方が来るの待ってた見たいよ」
メイとカイが、交代で作業していたらしい。
受付女性が、メイを呼ぶと作業途中だったが、慌ててこっちに来る。
「よほど、待ちきれなかったのかしら?」
「そうなのかな?」
慌てて何もない所で、躓きそうになるメイを支える。
「遅くなってゴメンね。まず蟲茸確認して」
アイテムポーチから、小さい木箱を取り出し布袋に入れた蟲茸をまず渡す。
「これが、メイとカイに描いたスケッチ」
セピア色の紙に、鉛筆でリアルに描かれた蟲茸の絵と、鑑定で出た蟲の名前が描き込まれている。
「ありがとう。凄くうれしい」
「裏にも書いておいた説明文、後でカイと参考にして」
鑑定した際に、蟲茸の蟲によって薬効に変化があることを記入しておいたレアだった。
「あとまた描いた蟲茸と別の種類の蟲茸見つけたら、また描かせて欲しいかな。直ぐじゃなくて、今後も採取会にまた参加するつもりだし」
ジーっとスケッチを魅入っているが、頷いているメイだ。
「なるほど、貴方が描いた絵が早く欲しかったわけだ」
「直接渡せて良かったです。私もう行きますね。もう少し話したい所だけど、蜘蛛が匂いに慣れてないみたいだから」
ポッケの膨らみを見せる。
「ああ、虫除け香ね。1歳以上の蜘蛛なら平気なんだけどね」
レアのテイムした蜘蛛が、1歳にもなってないと気付いたようだ。
「じゃまたね。メイ!カイにもよろしく言っておいてね」
レアは、薬師ギルドを出ると次の配達先に向かう。
早めに虫除け香の匂いから離れて、ポッケの中のクーを見れば落ち着いているようだった。
「蜘蛛も、小さい内は虫除け香は危険」
命の危険まではないが、本能的に忌避したんだろう。
なるべくこの辺で、虫除け香の匂いがキツイときは、ポッケに入れておくしかない。
ここからまた少し歩いて、女性物を多く扱う通りへ向かう。
「確かここは、手紙とパーツ配達が近い」
書かれた店名を確認してから、店に向かう。
配達先をメモした紙を見ながら、終わった物は横線引いて消しておく。
「おはようございます。配達にきました」
売り子が、工房宛の手紙と一緒に受領書を手渡してくれる。
確認してからアイテムポーチに仕舞い、次の場所へ移動する。
そんな感じで、午前中は移動して昼過ぎに頼まれた配達を終わらせた。
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