第6話 商業ギルド 2

商業ギルドにある鑑定室は、1階買取窓口の後ろにあるドアの先の部屋だった。


入った右側が鉱物類で、左側に植物や薬草、真ん中は各鑑定机で、低めの仕切りで混ざらないようにしているようだ。

さらに奥にもドアがあり、そっちは魔道具など高級アイテム用とのことだった。


「手伝いとして、短時間になるが、しばらく通うことになるレアさんだ」


今日は顔見せだとマラガが、レアを紹介する。


「チーフ!ライナの代わりですか?」


「補充人員とは別口だ。ライナが元担当していた者と言えば分かるか?」


察しろとマラガが言う。

レアは知らなかったのだが、冒険者ギルドで担当していたライナは、商業ギルドから出向だったようだ。


鑑定スキル持ちの職員が、やはり冒険者ギルドでも少なく商業ギルドから出向という形を取っていたようだ。


「レアです。初めましてどのくらいこちらに出入り出来るか、現時点ではっきりと決められていないので分かりませんが、よろしくお願いします」


「よろしく、みんなは忙しくて話半分にしか聞いてないみたいだから、冒険者ギルドに出向中が2名に、休息中で不在が1名、別館に2名、今日休み取ってるのが1名に、この部屋に現在居る俺含めて5人で、11人が居る。おっとチーフ入れると12人だ」


そう説明してくれたのは、ロバウドと呼ばれた人族の男性だった。

他の4人はヤナサ、ナーリア、ドアラーガ、セトラドと言うそうだ。

目の前の仕事に殆どが集中しているせいか、後日居ない者含め改めて自己紹介することになった。


「ロバウド、今は連れてないがレアさんは糸蜘蛛をテイムしている。ここにも連れてくると周知させておいてくれ」


「分かりました。なら次回連れてくるなら、フード付きの上着用意してくれるかな?」


商業ギルド内でも、蜘蛛をテイムしている職員がいるようで、出入りの客と打ち合わせしたり、テイムした蜘蛛に慣れない者でも、背中のフードに入るよう躾る事で、蜘蛛嫌いと思われる客に対応しているようだ。


「確か花蜘蛛よね。内の職員がテイムしてる蜘蛛って。赤みが入った白だったわ。さて初めまして、なんとか仕事の区切りついたわ。私はナーリアよ」


「初めましてレアです。私の蜘蛛は、糸蜘蛛です」


「この町くらいだろうな。かなりの数の蜘蛛が、テイムされてるってのは」


雲の森の浅い場所でテイム出来る子蜘蛛は、糸蜘蛛、花蜘蛛、土蜘蛛、火蜘蛛、水蜘蛛の大体5種類ほどだった。

奥に行くほど、他の種類も居るようだが滅多に姿を見ないので余り知られていない。

レアも、他にも居ると見聞きしたくらいだ。


面白いのは、テイムした者の職種に影響されるのか、職人だと糸蜘蛛、商人や貴族だと花蜘蛛で土蜘蛛、火蜘蛛、水蜘蛛は冒険者や行商人で、土蜘蛛は鉱夫テイムされることが多いと初めて知った。


「蜘蛛と共存している町だからな。蜘蛛と言えば、たまに体調鑑定してくれってくるが、蟲師の領分じゃないのか?」


「どうなんでしょう?自分がテイムした蜘蛛に、元気でいて欲しいのと、工房に生き餌しか食べない蜘蛛も居るんで、私の場合だと跳虫とか確保もして鑑定もしてるけど、蟲師が何をしてくれるか全く知らないので、蟲師ってどんなことするんですか?」


前に嫌味で、蟲師になればと言われたこともあったが、結局蟲師って何する職業か不明だと思うレアだ。


「言われてみれば、蟲師って言葉だけ先行して何するか知らないな」


蟲師ですと、わざわざ言う者も居ないだろうし、商業ギルドとは関わり合いがほとんどないようだ。


「蟲師はともかく、レアさんには別館で捌き切れない物と、こちらに回ってくる物を鑑定してもらう事になるわ」


ナーリアが、かごに入った薬草を見せる。

先程、ギルド長室で選り分けした量よりかなり多そうだ。


「これ学院で採取した物で、貴族の御子息や御令嬢が、授業の一環で週一ここに届けられた物よ」


学年別クラス別に分けられてはいるが、採取した薬草を商業ギルドに持ち込んだ物らしい。

売り上げでクラス順位の優劣の、参考にするとのことだった。


この町にも、貴族向け?なのか知らないが、裕福な者向けの学院がある。

下は5歳から上は17歳までと、その後の本格的な研究科でこっちは年齢制限ないらしい。

平民の成人が15歳で働きに出るのに対し、裕福な者は長く学ぶ事が出来るのは、羨ましい限りだ。


前世どれだけ教育に恵まれていたと、思うレアだった。


「えっと、手伝いした方が良さそうに見えるんですが、マラガさんどうしましょう?」


今日は挨拶だけのつもりだったが、見たところかなり鑑定が必要な薬草が多い。


「時給銅貨50枚は、どうだろう?本決まりなら銀貨1枚出せたんだが?」


「そんなに、沢山貰えるんですか」


びっくりした。

鑑定スキルって、お金になるんだと思ってしまった。


レアが似顔絵描きしてた時で1枚銅貨10枚で、1枚描くのに大体20分ほど時間もらっていた。

似顔絵描きは、時給銅貨30枚だったことになる。


ただ描いていた時は、日に2時間くらいしか似顔絵描きが出来なかったので、平均銅貨50〜60枚稼いでいたのだが、子供が毎日その金額を稼げることがおかしいと、レアは気づいていなかった。


町の平民なら両親がいて、稼ぐ必要がない子供のお小遣いが月銅貨10枚くらいである。


孤児院の子供だと、早い子は5〜6歳くらいで独り立ちする為の、資金を貯め始める。

孤児院から仕事を、与えられ金額に応じた内職みたいなことからするのだが、月銅貨20枚〜30枚になる。


そして、平原にでて薬草採取は、10歳からと決まっている。

薬草採取ができるようになれば、薬草の種類に応じた金額を、冒険者ギルドから貰える。


ポーション材料の緑燃草だと、孤児の場合は10本1束で銅貨30枚貰えるのだ。


これは転生者である、三代前の領主夫人から始まっており、今では当たり前の事業として子供でも出来る内職仕事と並行して孤児院が孤児たちに与えている。


この世界成人15歳と早く、孤児院にいられるのが15歳までなのだ。


孤児が5歳から貯めはじめたとして、成人した時に貯まるお金が最低で、銀貨24枚くらいらしい。

早い内からお金を貯めて、独り立ちした時に最低限困らないように、三代前の領主夫人の時代から決められたことだった。


そう言った訳で、レアが子供にしては短期で考えるならかなり稼いでいたのだが、周囲が全く気付かなかったのは、レアが転生者特典の1つでもある、アイテムボックスの持ち主だったからだ。


冒険者をしていた両親の、遺品はアイテムボックスに入れ隠した。


遺品の中に売れば、それなりの金額になった物がかなりあったが、形見を売る気もないし、持っていれば自分が使えると思ってのことだった。


似顔絵描きの売上も、アイテムボックスの中に入れてしまえば、孤児院に知られる事もない。


アイテムボックスは誰にも話していなかったし、これからも話すことはないから問題はないのだが、本来12歳くらいで稼げるのは、1日平均銅貨1枚〜5枚だ。


似顔絵描きを12歳で始めたレアが、絵を描く特技で子供にしては稼げたのは、転生者であり前世知識があったからだった。


「これでも、かなり低い金額なんだ。すまない」


チーフのマラガが言うには、鑑定スキル持ちは知名度があれば、銀貨1枚どころか鑑定するアイテムによって、金貨数枚貰えることもあるのだと言う。


ただ滅多に、そこまで稼げる依頼はそうないが、高給取りだなとレアは思った。


「大丈夫です。場所貸して頂ければ、お手伝いします」


銅貨50枚、円なら2500円!と、頭の中で勝手に円予想しているレアだった。


大体銅貨だの銀貨だの、計算がかなり面倒なのだ。

レアからすれば、銅貨1枚50円と考えて計算した方が楽なのだ。

たまに円と言いそうになるが、そう決めてからかなり楽に計算出来るようになった。


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レアの円換算


生き餌の虫1匹や、消しの実1個が銅貨1枚で50円


鉛筆1本 銅貨8枚 400円


似顔絵20分 銅貨10枚 500円


あくまでレアの勝手な予想


銅貨1枚 50円


銀貨1枚 (銅貨100枚分)5000円


金貨1枚 (銀貨100枚分)500,000円


白金貨まであるが、貴族や王族と一部の裕福な商人くらいしか使わない。

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