第5話 商業ギルド 1
工房のオーナーがそうしろと言うなら、見習いでしかないレアは、言われた事に従うだけだ。
やはりある程度気さくに話しが出来るとしても、相手は貴族だ。
前世と違い日本感覚で考えていては、どう思われるか以前に自分の身が、危険に晒される場合もある。
用心しすぎるくらいが、丁度良い。
「わかりました」
貴族との接し方に、注意するよう言われてはいたけど、こうも自分が予想しない事が、鑑定スキルを使う事で起こったせいで、普通感覚で話してしまった。
「さて、商業ギルドに戻るかのう。自己紹介もせんかったな。嬢ちゃんや。わしの名前はカウルと言う。そこのルシ坊と付き合いだけは長いただのじいさんだ」
「ケッ、どこがただのじいさんだよだ。夕飯までには帰ってこいよ」
このじいさんには、気をつけろとルシアスがいかにくえない商人だとボヤいている。
自分が赤ん坊の頃からの、長い付き合いのせいか、ただのじいさんなどではないと知っている。
「レアと言います。ルシアス様の工房で、職人見習いをしています」
頷くカウルは役所の役人に、書類手続きをするよう告げてから、レアに着いてくるように言う。
行き先は、商業ギルドだが、役所からかなり近い。役所の裏にある建物が、商業ギルド本館になっている。
「嬢ちゃんや。鑑定スキルは、生まれつきのもかね?」
「生まれつきのスキルは、別のスキルです。そっちもルシアス様に話してありますが、鑑定スキルを得られたきっかけに、なっているかもしれません」
特に黙っていたわけではないが、地味過ぎて気付かれにくかった。
「お帰りなさいギルド長」
受付のギルド職員が、なるべく急いで欲しい書類を渡している。
「話しの続きは、わしの部屋でじゃな」
ギルドの職員に、お茶を持ってくるよう言付けるのと、鑑定の責任者に来るよう指示する。
レアは採取会の集合場所の商業ギルドの別館はともかく、本館のこの商業ギルドの方に入った事がなかったので、物珍しく見ている。
受付案内窓口に、各商品の種類別窓口や、買取窓口までは別館より規模が大きくなっており、違うのは、別館は喫茶があったが、こっちは売店だった。
「珍しいかの?」
「本館の商業ギルドに入るのが初めてなので、中にお店があると思わなかったです」
レア的には別館は冒険者と平民向け、本館は貴族や商人向けのイメージが強かった。
別館の方だと、大人数で集まれるように集合場所は広く、喫茶スペースがあり平民でも入りやすい作りだった。
「本館は、常時販売物を置いておる。ここで仕入れる者も居れば、工房や個人商店で使う者も買うのう。嬢ちゃんも、買うのは自由じゃ」
平民でも自由に入れるが、用が無ければ本館まで出入りする平民は多くない。
必要な手続きは、別館で出来てしまうからだろう。
買うのに、特に制限はないらしい。
時間がある時に、見て見ようと思う。
「さてこっちじゃ。年寄りにキツイがのう」
階段を登った先が、ギルド長室だった。
中は商談用だろうか?椅子とテーブルに、離れた場所に作業用机と椅子が置かれている。
「そこに座ってかまわんぞ。さてさっきの続きじゃが、話せることだけで構わんぞ」
職人や商人の場合、よほど珍しいスキルでなければ、自分が持つスキルを知られるのは問題ないとされていた。
「その前に私が、鑑定スキル持ちって担当してくれた人に話していたんですが、報告あがってなかったんでしょうか?」
妙に鑑定した時に驚かれていたのが、レアは気になっていたのだ。
報告はしていたから、てっきり商業ギルドの人も知っているかと思っていたが、違うんだろうか?
平民の場合個人が持つスキルは、基本本人が申告する。
何故なら就職する場合に就く職業により、有利なスキルがある場合があるからだ。
ないからと言って就けないわけではないが、スキルがある方が仕事を探すのに、有利なのも確かだ。
「すまんのぅ。どうやらこっちまで上がっておらん。ルシ坊から聞くまで半信半疑だったんじゃが、やはりライナが報告せんかったようじゃ」
ルシアスと知り合いのギルド長でも、普段から職員全ての行動把握しているわけではない。
「優しそうな人だったのに、人って分からないものですね」
ふんわりした雰囲気の、可愛い顔立ちの受付嬢で、冒険者ギルド内でもかなり冒険者からモテていた。
「奴隷落ちさせたが、現在領主付きの兵士が調査しておる。本人からどこまで、聞き出せるかわからんがのぅ」
裏でどこかの貴族と繋がっている可能性も、なくはないのだ。
レアが見つけた虫から採れる染料が、このスレバの町を賑わせる一助となるのは確実だ。
それをどことも知れない者に、横から盗られたかもしれなかったのだ。
ライナは商業ギルドから出向していたとは言え、普段から貴族も出入りする、商業ギルド本館に出入りしていた。
そこで知り合った誰かに唆されのか、違うのか詳しく取り調べ中らしい。
今回の事は、一歩間違えればどれだけ深刻な事になるかもしれなかったのだが、一介の職人見習いでしかないレアに分かる筈もなかった。
鑑定スキル持ちは、商業ギルドでも貴重な人材だ。
ライナの外見は、貴族にも好意的に受け止められていた。
カウルにすれば、久々の新色染料の発見に心踊ったが、目の前のレアに護衛が、必要になるなと考えてもいた。
「先程のスキルの話の続きですが、実際に見てもらった方が早いです」
居なくなった人を、いつまでどうしてと、考えても仕方ないので、レアは話を戻すことにした。
自分の魔力10を消費して、テーブルの上にハガキサイズの紙を出す。
「自分の魔力を変換させて、紙を作るスキルです」
画用紙ほどの厚さで、色は薄いセピア色。真っ白にも出来たが、この世界で流通している紙の色がこの色だった為、それに合わせた。
レアには、前世の記憶があるから紙の色も好きに変更出来たが、あえて流通している紙色になるようにしている。
ただ真っ白の紙もあるが、使うのは貴族や一部裕福な商人くらいだ。
「製紙スキルじゃな」
珍しいと言えば、珍しいスキルだが使えないと意味での珍しいスキルである。
材料を必要とせず、自身の持つ魔力のみで作れる一見便利に見えるスキルだが、使えないスキルと言われている。
「最初は、小さくしか出せなかったのですが、使い続けてここまでの大きさの紙が出せるようになりました」
アイテムポーチを取り出して、採取した物のスケッチの束を取り出す。
「私は孤児なので、孤児院にいた頃から採取した物を、こうして紙に描いたりしていたら、いつの間にか鑑定スキルが使えるようになりました」
孤児院では、簡単な薬草など森の手前の平原までならで、採取して小遣い稼ぎが出来た。
門からも近く見張りの兵士もいる為、孤児の出入りは容認されていた。
鑑定スキルに関しては転生者だから、スキルが得られやすかったとは言わない。
気づいたら持っていたと、そう言うくらいか。
「製紙スキルを持っていたと、いつから気づいたのじゃ?」
この大きさの紙なら、似顔絵描きに使っていたのも
「物心つく頃から、紙を出して遊んでいたらしいです」
亡くなった両親が、仲間の冒険者に話しており、両親の死後かなり経ってからその話しをレアは聞かされた。
「鑑定スキルは観察していたのが、良かったんじゃな。手持ちにあったこの紙に記録したのも良かったのかもしれんのぅ」
鑑定スキルは、生まれつきで持つ者の方が多く、レアの様に後から発現する者は少ない。
かなり詳しく話していた為、鑑定が生まれつきかと思っていたが、日々の採取や紙に記録した事で運良く発現したようだと、そう思ってくれたようだ。
「ルシアス様と、出会うきっかけもある意味この紙かなぁ」
似顔絵描きを頼まれ、描いたら別料金出すから今着てるルシアスの服を描けと、言われたのもまだ数ヶ月前なのに、懐かしい思い出になっている。
「そう言えば、ルシ坊から出会いまでは聞いておらんかったのぅ」
「辻馬車乗り場の近くで、似顔絵描きしてたのが初めで、その時にルシアス様が着ていた服の絵を描いて欲しいと、言われたのがきっかけです」
その後は、ルシアス様の工房に職人見習いになり、決まっている衣装の絵が欲しかったようで、絵描きがいないから、描いて欲しいと頼まれたのだ。
ルシアスは服の作製とか、別の人が決まってたが、見栄えする絵を描けるだけの者を、別に探していたようだった。
服は作れるが、貴族が納得出来る絵の見本となると、描ける絵描きはそう居ない。
貴族御令嬢のドレスとか、紳士服とかオーダーする前の見本にする為だった。
どんな絵でも描きたいレアにすれば、かなり楽しく描けたと思う。
ただ残念だったのが、色ぬりはルシアス様の方でするから、ある意味塗り絵出来る状態に描きあげることが、レアのする仕事になったことくらいだ。
その為、レアの仕事は空き時間の融通ができた。
そんな訳で、工房では頼まれた絵を描く事以外の仕事を、レアの場合強制される事もないので、鑑定スキルを利用して、工房の職人がテイムした蜘蛛の体調管理をするようになったのだ。
それが今回のおかしな事件に、巻き込まれるきっかけに なっていたのだが、転生者であったレアは、こっちの世界の常識に疎いこともあって、他人からの悪意を運でたまたま切り抜けた。
「なるほどのぅ。ルシ坊は、貴族らしくなく町中どこへでも身軽に動く上に、目敏く子供が似顔絵描きしてる姿で、目を付けられたんじゃな」
使えないと思われる製紙スキルだが、ここまでの大きさで出せるなら、平民向けの似顔絵描きもアリかと思ったカウルだ。
「似顔絵描いてみます?普通に描くのと、可愛く描くのとありますけど?」
「ルシ坊ならまだしも、わしもうじいさんじゃ。可愛くなど無理じゃろ?」
なら可愛く描いて見ようと、アイテムポーチから鉛筆と消しの実を取り出す。
「時間かかるかのぅ?」
「15分くらいですね。なるべく顔こっち向いて居れば描けます」
似顔絵描きの商売時は、余裕で20分貰って描いていたが、今ならかなり短縮出来るようになった。
レアは集中して、カウルじいさんの似顔絵を描いている。
カウルじいさんは、ただ何もしないでいるわけにもいかず、先程渡された書類に目を通していた。
途中、ノックがあり誰か入って来たり。テーブルにお茶を置かれても、無心で描いていた。
「出来た」
こんなものかなと、紙に描いたカウルじいさんの似顔絵を渡す。
「やあ凄い集中力だね。初めまして、ここで鑑定の責任者をしているマラガと言う」
レアは思わずじっくりと、確認してしまった。
エルフを、こんな間近で見たのは初めてだった。
「初めましてレアです。職人見習いです」
「エルフが、何でここに?とびっくりしたんじゃろ?」
ただ頷くレアだった。
カウルじいさんは、渡された自分の似顔絵を見つつ、これが可愛いく描いた場合のわしなんじゃと、マラガに見せている。
「特徴を、良く捉えてますね。さてギルド長こちらのレアさんが、鑑定スキル持ちでギルドで働くと、言う事で良いですか?」
「ちょい違うんじゃな。ルシ坊んとこの職人見習いなんじゃが、おそらく鑑定スキルが上位と思われるが、ルシ坊が手放すわけないじゃろし、たまに貸出しろと頼んで来てもらった」
「レアさんは、短時間か日を決めて不定期ですかギルド長?」
「そうじゃ。ライナが馬鹿をしくさったせいで、鑑定スキル持ちが足りないと、言ってたじゃろ。それにの、このお嬢さん危うくライナの悪巧みの被害者になるとこじゃった」
「分かりました。ではレアさん。鑑定スキルの確認をしたいので、このかごに入っている物を選り分けて欲しい」
無造作にかごに薬草が入れられており、種類分けをしていない状態だと言う。
「冒険者ギルドではなく、こちらに直接売りに来た物ですが、採取した者が不慣れもありこの状態で持ち込まれた物です」
明日までに、全て確認して終わらせる必要があると言う。
空かごも置かれており、選り分けが終わった物は、空かごに入れるよう指示される。
「分かりました」
テーブルの上を片してから、木箱の中の薬草を種類別に分けて行く。
空かごに選り分けた薬草を間違えないよう、持っていた紙に薬草名を書き、かごに入れておく。
レアが作業している間、マラガはギルド長と別の打合せを行うが、レアを観察することも忘れない。
レアはひたすら鑑定して選り分けをする。
空かごの中に紐が用意されていたので、10束ずつ紐でくくり、数えやすいようにまとめてからかごに入れる。
選り分けていた薬草は、ポーションの材料になる緑燃草、MP回復薬に使う朱里草、何にも使えない雑草、痺れ薬に使える黒毒草と4種類だけだった。
「終わりました」
紙に書いた薬草名の後に、箱に入っている数も記入する。雑草も、数を記入しておく。
「早いな。確認させてもらう」
マラガは、かご別に入れた薬草とその数の確認をする。
「間違えている物はなし、雑草との選り分けもちゃんと出来ている。数の記入も、忘れずしている。薬草関連は、任せても大丈夫だな」
マラガは特に、問題ないと呟いている。
「そうじゃろそうじゃろ。わしがスカウトしたんじゃ」
カウルじいさんが、自分のスカウトは絶対間違いないと呟いている。
「鉱石やアイテムの鑑定もいずれしてもらうとして、そっちの希望は何かあるかい?」
「働く時間は、ルシアス様が決めると思うので無茶なこと言われなけば大丈夫です。ただ糸蜘蛛をテイムしているので、なるべく一緒に居たいので、連れて来ても良いでしょうか?」
レアは、肩か頭にでも乗せていればただ居るだけだし、害もないと告げる。
「確かにテイムした糸蜘蛛は、なるべく一緒に居ないとまずいな」
テイムしてまだ数ヶ月くらいらしく、従魔にして間もない魔物の場合、なるべく一緒にいる事が推奨されている。
受付窓口に立つことがある場合だけ、糸蜘蛛は見えないように、対策が必要と告げるマラガだった。
商業ギルドは色んな国から人が訪れる為、この町の者のようにテイムした蜘蛛が、当たり前のようにどこでも見れるのは珍しい。
初めで町に来た者には、テイムされている蜘蛛のことを説明しているが、それでも蜘蛛嫌いはいる。
害がない蜘蛛と分かっても、蜘蛛を見ただけで嫌悪感を持つ者は少なくない。
滅多にないが、酔っ払いがテイムされた蜘蛛を見てとっさに襲った事件もたまにおきるのだ。
当然、襲われたことが原因でテイムされた蜘蛛が死ぬようなことがあれば、どんな理由があれど襲った者は犯罪奴隷落ちだ。
ただ抜け道が無いわけでなく、テイムしていた者が納得出来るだけの賠償金を払えれば、奴隷にされることはない。
これはどんな国から来た者でも、各ギルドや貴族社会でも周知されている。
スレバの町は、服飾の町とも言われているが、蜘蛛と共存する町でもあり、蜘蛛を始めとしたテイムされている従魔には、住みやすい町でもあった。
そして雲の森は他の魔物の従魔よりも、蜘蛛を従魔に出来る特殊な環境でもあった。
「後は、採取会は必ず参加したいのと、暇な時間があれば珍しい素材やアイテムのスケッチしても良いでしょうか?」
マラガにも、今までスケッチした束を見せる。
「どうしますギルド長?」
「わしは、構わんぞ。嬢ちゃんすぐでなくて良いから、まずは薬草からじゃな。採取する時の特徴を絵付きで分かりやすく描いてくれんか?色付きだとなお良いんじゃが」
初めて採取する者に、売り付けるのはどうだと提案してくるギルド長だった。
「色付きは、無理です。まず魔道具屋に置かれている色絵の具が高いと聞いたことがあるので、私の手持ちでも買えないと思います」
価格までは分からないが、魔道具屋に置かれているなら貴族向け商品だろうと思う。
魔道具屋なんて、貴族向け商品か魔法使い向けのイメージしかないので、平民が気軽に行ける店ではない。
聞けば、値段も金貨でしか買えない物ばかりらしい。
「私が出せる紙の大きさも、この大きさまでなので、これ以上と言われたらギルドで扱っている紙を購入して描くことになるのかな?」
「嬢ちゃん大量に描けと言ってるわけじゃないんじゃ。描いてもらったこの似顔絵は、売るならいくらになる?」
「以前似顔絵屋してた時は、この大きさで一律銅貨10枚で売ってました。紙代にお金かかってませんが、鉛筆代が1本銅貨8枚はかかってます」
そう言えば、鉛筆欲しさに似顔絵屋を始めたと思い出す。
孤児院でシスターにお願いして、最初の鉛筆1本買うのに、少ない小遣いを使わず貯めてからお願いしたのも懐かしい思い出だ。
両親の遺産は多少あったが、他の孤児に合わせ使わなかった。
面会に来てくれた両親の友人が、成人するまでどう過ごすか、教えてくれたことを指針にしたのが良かったと思っている。
「安いですね。まぁ鉛筆は、かなり保つかと思いますが、消しの実もお金かかっているのではないですか?」
消しの実は、この国なら森の中に生えているが、必要無ければ採取されない実でもあった。
買うと1個銅貨1枚と安い方ではあるが、使い道が少なく、金にならないので物好きな冒険者が採取するくらいだろうか。
「そっちは、最初は両親の知り合いの冒険者の人にタダで森で採取したのを貰ってました」
お礼は似顔絵を描いて渡すくらいしか出来なかったが、知り合いの冒険者を紹介してもらい消しの実5個と似顔絵で交換していたと話す。
「なんと言うか、逞しい?商売としては儲けが少なすぎだと思いますが、ギルド長?」
「んむ嬢ちゃん、商売に向いておらんぞ」
「私が似顔絵屋を始めたのは12歳から、今の工房に入るまでで、そんな子供が描いた似顔絵を高いお金出して買ってくれると思いますか?」
辻馬車乗り場近くで描いていたのも、人の入れ替わりが多く、物珍しくて子供が描いていると、買ってくれるかもしれないと打算的に考えてだ。
自分の肖像画は貴族ならまだしも、平民が簡単に描いて貰えるような値段ではない。
この町に来た記念にと、描いてくれと頼まれることが多かった。
町にいる者が、離れた村に住んでいる両親に、生まれたばかりの孫の絵を送りたいからと頼まれたこともあった。
「儲けではなく、絵を描く為に鉛筆絶やさず買い続けるためが目標だったので、今でもですが絵を書き続ける為ですかね」
絵が描きたい。
その思いからなのか?答えは出てこない。
今の自分になった時が、一番衝撃的だった。
それは前世を思い出した状況が、両親の亡骸を目の前にしたショックからだろうと、今なら思う。
錯乱して、両親の亡骸に抱きついていた時だった。
前世の記憶が戻ったのは、商人の護衛で両親とこの町へ来る途中の、雲の森とは反対側にある山側の峠道で、群れをなした魔物に襲われたのが原因だった。
両親が死んでとても悲しいのに、何故か前世の
念願の美大生になって、さあこれからと言う時に、車に突っ込まれて死亡した瞬間をフラッシュバックしてかなり混乱した。
死ぬ直前の記憶は、驚愕した老人の顔くらいしか覚えてない。
前世を思い出し間もないあの当時は、両親を亡くしたショックで一時的におかしくなっていたと、そう思われていただろう。
実際、頭の中でスキルがどうのこうの言われ、混乱したのが原因だったのだが、ギルドや教会に行かなくても、自分のスキルが分かるようになったのが大きい。
その後は孤児院に引き取られたが、色んな手続きを両親の友人の冒険者の人達が、ちゃんとしてくれ遺品も手放さないですんだ。
孤児院で過ごす間、遺品は転生者特典のアイテムボックスに入れ、両親の友人だった冒険者には安全な所で保管したと報告した。
前世の、絵を書き続けたかったとその思いが、描きたいと、今に引き継がれているのだと思う。
どんな絵でも、物珍しくてつい色々と描きたくなってしまう。
この世界、前世と違いすぎて見るだけで楽しいのだ。
「今は、色々とすることがあるので、ギルド長の申し出は嬉しいですが、断らせて下さい」
絵は描きたいが、自分からと仕事のノルマでとなるのは違う気がするのだ。
仕事は、ルシアス様に頼まれた物だけに集中したいし、ほいほいと別の仕事まで請け負って、本来しなければならない工房の仕事に影響しても困る。
「残念でしたね。ギルド長」
「振られてしもうたのう。仕方ない他の職員の理解を得られるならば、好きに描いて構わないかのう?」
あわよくば、ルシ坊を挟まない絵描きをしてもらいたかったが、なかなかに聡い子だと思うカウルだった。
好々爺にしか見えないカウルだが、商業ギルド長でもあり、レアの絵を見たがかなり実用的に使えそうだと判断した。
ルシ坊の、運の良さと言うべきだろうか。
「おいおい仕事に慣れてもらってから、空き時間にでしょうか」
大まかに鑑定の仕事は、採取した薬草の確認が今の時期だと多かった。
不慣れな新人が、先程のように無造作に持って来ることが多く、確認作業で時間がかかるのだ。
「とりあえず、君が働くことになる部署に案内するので、付いてきて欲しい」
マラガに言われレアは、その後をついて行く。
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