第5話 提出物
——ガラガラッ
斜構 守は少数の視線を受けながら一番前の椅子に座った。
「斜構君、遅刻カードの提出は?」
現代国語の先生が手を伸ばして聞いてきた。
あ、先生に遅刻カードもらうの忘れてた。しゃーないな。
「先生がカード渡すの忘れてたみたいで持っていないです。でも職員室には行ったので生活指導の先生に確認とってもらえれば大丈夫です」
「本当は取りに戻って欲しいところだけど、まぁ分かったわ」
理解か早い人は助かる。脳筋は困る。
「それじゃあ遅刻カードじゃなくて提出物出して」
「いつのですか。1ヶ月前の提出物なんてないです」
「全部出して欲しいところだけど、みんなにも都合があるだろうから出せるやつだけ出してね」
先生は笑顔を絶やさない。
しかし、俺は知っている。先生がブチギレ寸前な事を。先生が怒っている原因は提出物だ。決して俺じゃない。
「2日連続である授業に毎回提出物をつけると次の日に提出できるかどうかなんていわずとも知れてますよ先生」
「だからこうして何日も引き延ばしているのに提出しないのは何故かしら……?」
あぁ、怒ってる。これはまた職員室行きか。
しかしそんなに怒ってると、顔がもっとひどくなっちゃうけど言った方がいいのかなこれ。
「僕が出そうにも出せない理由は提出物の難易度と量にあると思います。一度提出が遅れる事で当然のように全ての提出が遅れます。それは勿論他の授業の提出物もしないといけませんから必然ですよね」
「それで?」
「授業中に提出物をする事を良く思わない先生の考えを尊重した俺に溜まるのはストレスと提出物。減っていくのは提出物じゃなくて時間だけです」
「休日にでもすればいいじゃない。答えもあるんだから」
「休日に……提出物をする……?先生は公務員だから感覚が分からないかも知れませんが一般に休日に仕事をするのは稀です。それは生徒も同じ立場にあるはずですよ。子供は働く代わりに学校に通うのですから、大人が出勤しない休日は子供も学校に関する事をしてはいけないんです」
「つまりはこれらの環境にした人間が悪いわけであって僕が直接的に怒られる理由はありませんし、テストの点も問題ないので成績上問題は生じません。なので気が向けば提出する方向でこれから頑張ります」
周りからの視線が絶対零度超えてるだろうが己の正しさを信じる時に下を向くのは間違っている。先生の顔でも見てよう
「——ッファ◯ク‼︎」
水を打ったように静かな教室に
守は手遅れである事を実感し口が開きっぱなしの先生に
「先生は現代国語の教師なんですから、英語を使うのは少しどうかと思います。まぁ気持ちが高ぶって言ってしまったのなら、それは先生ではなく提出物が原因です。あっでも、そうなれば提出物を作ったのは先生だから先生が自分の首を絞めただけかも知れません」
そう言って、静かに着席した。
「俺は悪くないんだよね」
後ろの方から俺のセリフを奪うかのようにその声は授業の終わりを告げた。
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