余談だが
韮崎旭
余談だが
余談だが、先回りしていた山岡が私に述べたところによると、冬場の躁鬱とその人間の医薬品の乱用には特に相関関係はないそうだ。数を数えるほどに追い詰められてゆき、何もなくなり行く先には倒壊した廃屋と何もない場所、荒廃を図案化したような……が正に待っているに違いないと考えた。どう考えてもそうとしか思えず、私は寝起きには判断力が低下しているから、草木の水やりなどをよくしていた。淡く弱々しい陽光はさながらサナトリウム文学のミューズのようで、天啓は疾患と抑うつの炎をもった。人魚の胎盤の丸焼きなどが供される。街区はまるで陸棲生物の肺の血管のように入り組み、さながら煉瓦と石でできたバラック群だった。そんな材料で通常バラックは作らなくて、頑丈すぎるので掘っ立て小屋とも呼べないのだが、漁師町の人間がよく来ているような粗い糸のセーターを着ていた。
茶でもどうかと勧めるに、「今は休暇の消化で忙しいのだ。私は虚無的にならねばならない。常に、何かに支配されそれを喜びとする悪習から時には距離を置く必要があるのだ、人間は、冷静さの与える沈黙と無力に耐えられない、それが思い込みで構わないのだ一向に、薬原性の多交換に浸っていたい、もうしばらくは。」と山岡は述べた。そして私は戸を閉ざした。
私には行く場所がなくなった。
仕方がないので新宿駅の南口へ向かうことにするが改装工事のせいでそれは見慣れた新宿駅ではなくなっていた。これはJR新宿駅のことを指している。私はその日しかし、気分がむなしかったし、ふやけたような破損のあらましを、感情的には抱えていた。そのせいで、やはり西口に向かい小田急線に乗車、特にあてもなく鉄道旅行をするという考えを真に受けてしまいそうだった。確かにスペーシアは快適かもしれない。目的地があれば。だが私には目的地がないのだ、ゆえに空疎なバカンス。それは正しい音の由来。
イルミネーションの鮮やかさにふと、おさまっていた過度の緊張と頭痛が蘇り、経験したことのない過呼吸を引き起こす何かの存在を身近に感じていると救急車のサイレンが空耳していることに気が付いた。イルミネーションの鮮やかさはますますどぎつく、わざとらしくなる。文明の何たるかを人間どもに誇示するように。私は本当に用がなかった。どこにも、何にも。それでも意識だけはあるのでそれを持て余していた。日に日に空虚さと焦燥は悪化していた。躁病かもしれない、そんなわけはない、いやしかし。考えるうちに立ち入ったコンビニエンスストアで訳も分からないままATMで預金を引き出し合成樹脂製のかごいっぱいのシュークリームと安酒を購入していた。引き落とした預金のほとんどはそれに消え、しかもその安酒の缶の中身がまた質量のある液体だから重く、私の現世への気の向かなさにその重みが拍車をかけた。
定型文の模写のように、堕落した生活をなぞる感覚。
余談だが 韮崎旭 @nakaimaizumi
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