第366話  バイオレット・ローズ号



猿みたいにマストのてっぺんに登ったイングマルは板材を釘で打ち付け、方杖を取り付けると台上にあがってみた。




他の船よりも長いマストで甲板ははるか下に見えた。



3本のマストを繋ぐロープを渡し、それぞれ射撃台に鉄棒を曲げて簡単な手すりを造り上げ台に取り付けた。






他の船と同じ様になってマスト先端の射撃台はギルドシーワゴンのトレードマークになっていた。




もっともこの射撃台に上れるのはイングマルしかいなかった。




大人の体重では物凄くあおられるので恐ろしくて上がれたものではなかった。





イングマルは出来上がりを眺めて「うん。良くできた。」と言い一人で納得していた。





ウイリアムは「そう言えばこの船は名前がまだないぞ?どうする?」と聞いた。





イングマルは「それなら考えてあるよ。バイオレット・ローズ号だ!」と言った。



ウイリアムは「すみれ・バラ号?なんだそりゃ?まあ、華やかでいいけど。」と言った。





イングマルは船尾に白いペンキを持って行って「VIOLENT ROSE」と書き込んだ。





はじめは気にしてなかったウイリアムだがよく見たらスペルが違う事に気がついた。




ウイリアムは「おい、あれはスペルミスじゃないのか?Nはいらんだろう?」と聞いた。





イングマルはペンキを片付けながら「うん?いやいや、いいのいいの、あれで。」と言ってごまかした。





ウイリアムは「いいのか?まあ、お前が良いなら別に構わんが・・・・」と言ってそれ以上は聞かなかったが「あれじゃじゃねーか?」とつぶやいた。






バイオレット・ローズ号という船の名前が勝手に小僧に決められてしまい船員たちは不満に思っていたが何も言えずにいた。





もっと勇ましくカッコいい名前を皆考えていたようだが花の名前なのでがっかりしていた。




だが船は女性なので女性名詞をつけることが多い。





そんな事を知ってか知らずか?イングマルは一人上機嫌であった。












バイオレット・ローズ号を後にしたイングマルは石材下ろしを手伝いに船に戻った。




積み降ろし作業は載せる時ほど手間はかからずあっという間に終わり、バイオレット・ローズ号の泊めてある桟橋にすべての船がやって来た。




グレート・パッション号、リバティ・コンティネント号、バイオレット・ローズ号、そしてイングマルのノイエ・カール・ド・ルシュキ号の4隻。




すべて同じカーキ色の塗装で三角帆、マストのもっとも高い所にギルドシーワゴンの旗が掲げられていた。



桟橋前の広場に初めて一同が集まり顔合わせを行った。




代表のジョンはまだ入院中で他に四人が入院していてこの場には50人あまりが集った。




木のコンテナを演壇にしてロイドが上に上がり各船長を紹介した。





「リバティ・コンティネント号の船長はジョン・アローだが怪我で不在なので復帰するまでオットー・カーンが船長。



グレート・パッション号の船長には前のままアントニオ・グリーンウッド。




新しい中型船バイオレット・ローズ号はここにいるエーギルじいさんが船長を務める。


バイオレット・ローズ号は編成したてで人数も多いので副長をウイリアム。




各船の三役は船長に一任します。」と言った。






「次に新しい船員たちだ。」と言ってバイオレット・ローズ号の乗組員を順番に壇上登らせ簡単な自己紹介をさせた。




出身地や年齢、人種はバラバラでみんな緊張していたがやる気に満ちて張り切っていた。







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