第367話 新しい準備
ロイドは再び壇上に上がり「新しい船員たちは初めてだな。
もう1隻ノイエ・カール・ド・ルシュキ号の船長でオーナーのアウグストだ。」と言ってイングマルを壇上に上げた。
イングマルの姿を見て新しい船員たちはざわめいた。
「何で子供が?」
ロイドは続けて「この者は船団の護衛だ。」と言った。
それを聞いて「何だって?!」と今度は声を上げた。
「冗談だろ?!ふざけているのか?何を言ってるんだ?!」と皆不安な空気に包まれた。
ロイドは「あー皆の不安はよくわかる、だが信じてほしい。
この者なら間違いない。
くれぐれも言っておくが試してやろうとか思わん事だ、命がおしかったらな。」と言った。
新しい船員たちはまだざわめいていたが他の船員たちは納得した顔でいるので半信半疑ながら「本当だろうか?」と思っていた。
イングマルは笑顔で「どうも初めましてアウグスト・ブルックです。
どうぞよろしく。」と短く挨拶しすぐ壇上から降りた。
ロイドは「準備が整い次第出港する、次の目的地はドーバーだ。」と言った。
新しい船員たちは期待と不安の入り交じった複雑な表情であった。
エストブルグの町の中心にセイント商会という大きな商社がある。
店の外も中も多くの人で賑わい忙しくしている。
店の奥に入っていくと段々とガラの悪そうな人が増えてきてチンピラや用心棒、傭兵達がたむろしている。
セイント商会は貿易を中心とした総合商社であるが実はその大元はプロビデンスという巨大ギルドでその富は国の国家予算に匹敵し自前の軍事力も保有している。
権謀術数にたけて目的には手段を選ばない。
いろんな国や貴族、領主相手に金を貸したりもしている。
だがその実状は貸した相手に返済不可能な金利を掛け、担保のかたに相手の領地、人民を実効支配してしまうものである。
事実上この商会のものになった国や貴族は幾つもあり、それらの貴族の婚姻もすべてこの商会の意向によって決まったりしていた。
事務所の奥にイングマルとトラブルになった農民たちが呼び出されていた。
「ど、どうも旦那様。御機嫌うるわしゅうございます。」と農民たちはおどおどしながら言った。
農民たちもイングマル相手にチンピラのように振る舞っていたがここではかわいいものである。
回りにいるのは筋金入りの人たちでこの商会の兵隊であった。
恐い人たちに囲まれて農民たちはおしっこチビりそうだった。
「お前らには金貨50枚の借金が有るのが分かっているのか?」と一番奥にいたボスらしい人が言った。
農民たちは「は、はい!そ、そりゃもう!」と焦りながら答えた。
ボスは「お前らの借金を待ってやってるのはお前らに仕事を任せたからだ!」と言った。
農民たちは「は、はいっ!わ、分かっております!」と半泣きで言った。
ボスは机をたたきながら「分かっとらんだろう?!お前らはここ1ヶ月、誰も借金漬けに出来とらん!?
暇があったら町でバクチばかりしやがって!?
このまま役に立たんのならもうお前らに用はない!
炭鉱奴隷に売り飛ばしてやる!覚悟しろ!」と叫んだ。
農民たちは泣きながら「ヒッ!お、お待ちください!それだけはご勘弁下さい!」と拝むように手を合わせた。
ボスは「なら仕事をしろ!一人でも多くバーデンス領の農民をバクチ漬けにしろ!」と叫んだ。
農民たちは「は、はいっ!かしこまりましたッ!
あ、あの~スベン川に桟橋が出来たのはご存じでしょうか?」と言った。
ボスは「何だと?!桟橋?」と聞いた。
農民たちは「は、はい。ライオネル卿のお屋敷の近くに・・・たしかギルドシーワゴンが請け負ったとか言ってました。」と言った。
ボスは「何だと?!何でそれを早く言わんのか?!」と怒鳴った。
農民たちは「ヒッ!す、すいませんでした!」とあやまり続けた。
ボスは「シーワゴン・・・・あいつらか・・・・?くそがッ?!」と吐き捨てるように言った。
ボスはさらに「おい、お前ら、新しい仕事をやる。」と農民たちに言った。
「お前らの手で桟橋を破壊しろ!」と言った。
農民たちは驚いて「は、破壊って?・・・そ、そんなの一体どうやって?」と聞いた。
ボスは「何、簡単だ。油を撒いて火を付けるだけだ。」と言った。
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