第351話 土の話
イングマルは「鉄分?酸性化?」と言いながら自分でも土をすくいとりながら土を眺めてちょっと舐めてみた。
土というより血のような味がした。
エドモンドは畑の端に積まれた砂山にいくとイングマルに「これだ。」と言って指差した。
砂山のなかに所々黒いまだら模様がある。
エドモンドはその黒い物をつまみ上げると手のひらにのせ「これは砂鉄だ。」と言った。
砂に混じった黒いまだら模様は全て砂鉄であった。
エドモンドは「こいつのせいで土が酸性化してしまい鉄の道具はあっという間に錆びてしまう。」と言った。
イングマルは「でも砂は取り除いたんでしょ?何で土が酸性化してしまうの?」と聞いた。
エドモンドは「そこが厄介な所なんだ。
取り除いたと言ってもすぐ出来たわけではない。
何ヵ月も何年もかかっているからその間にすっかり染み込んでしまったのだ。
一旦酸性になった土は中々もとには戻らない。
酸性の土ではどんなにたくさん肥料をやってもちゃんと育たないのだ。」と言った。
「元にもどるようになるには何度も雨にさらされ洗われて何十年後かには元にもどるだろう。」と続けて言った。
イングマルは「そんなにかかるの?」と聞いた。
エドモンドは「ああ。しかしその頃には雨と風で完全に土が流亡して何も育たない砂漠のような不毛な荒野が広がっているだろうな。」と言った。
イングマルはあきれて「まさか?それじゃ結局ダメじゃん。」と言った。
エドモンドは「けっしてオーバーな話ではないぞ。
かつて栄えたローマやエジプト、地中海周辺の国々は今はほとんど砂漠になってしまった。
土が荒れ果て農業が出来なくなったせいだ。」と言った。
イングマルは「それじゃこの地方もそんな風になるの?」と聞いた。
エドモンドは「このままなにもしなければいずれそうなる。」と言った。
イングマルは「何か手はないのですか?」と聞いた。
エドモンドは「ある・・・・その前にまた教会に戻ってくれるか?」と言った。
二人はまた馬車に乗り込み教会に戻った。
教会に着くと再び裏庭に向かった。
裏庭は3m四方あまりの区画の小さな畑が幾つも並んでそれぞれ畑はイングマルがみたこともない作物がたくさん植えられていてどれも立派に育っている。
エドモンドは畑の側に行くと「この畑の土はさっき見てきた畑の土を持ってきたものだ。」と言った。
イングマルは驚いて「え?でもあの土では何も出来ないんじゃ・・・?」と聞いた。
エドモンドは「これだよ、これを畑にすき込むのだ。」と言って納屋から持ってきた袋を見せた。
石灰の粉だった。
「石灰で土の酸性を中和するのだよ。」と言って何も植わっていない畑に石灰の粉を振り撒いてクワで耕していた。
イングマルは「それだけ?」と聞いた。
エドモンドは「それだけだ。後は2週間後位にレンゲかクローバーの種を撒くんだ。
それで上手く育てば成功だ。
秋にすき込んでその後普通に麦やえん麦、ライ麦を撒けばいい。
元々氾濫で運ばれた土砂は肥沃な養分を含んでいるんだ。
酸性さえ無くなれば作物はよく育つんだ。」と言った。
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