第352話 封建制度の弊害
イングマルは石灰をすき込むだけでいいと聞いて「そんなに簡単な事ならどうしてもっと皆やらないの?」と聞いた。
エドモンドは「簡単と言っても大量の石灰が必要になるからな、個人ではまかないきれないのだよ。」
イングマルは「全部いっぺんにやるには難しくても少しづつでもできるでしょう?」と聞いた。
エドモンドは「ウム・・・・確かにそうなんだが・・・・もっとも深刻で決定的な問題がな・・・。」と言いにくそうに口ごもった。
イングマルは「・・?・・・まだ何か厄介な事があるんですか?」と聞いた。
エドモンドは「ウム・・・なんというか・・・その・・・一番厄介な問題がな・・・。」とはっきりしない。
イングマルは「何なんです?」というとエドモンドは「一番の問題は農民たちのやる気というか?モチベーションというか?・・・要するにほとんどやる気がないのだ。」と言った。
イングマルは「やる気がない?」と聞いたが全く意味が理解出来なかった。
エドモンドは「君のように若いものには理解出来ないかもしれんな、農民たちは昔ながらのやり方、決まった事しかしようとしないのだ。」と言った。
イングマルは「でも昔からのやり方では立ち居かなくなるのは分かってるんだし、石灰を撒けば良くなるとちゃんと説明すればいいんじゃないの?」と聞いた。
エドモンドは「もちろんそんな事はとっくにしている、この畑を見せて説明もしている。
ちゃんと出来る事を証明して見せてもダメなんだ、やろうとはしないのだ。」と半分あきらめたように言った。
イングマルは「何でそんなことに・・・?」とつぶやいた。
エドモンドは「このままでは国が滅びる、農業が出来なくなる、と何度言っても彼らは「それはお上の成されようで我々には関係がない」と言ってやろうとはしないのだ。」と言った。
イングマルは今は船乗り、商人なのであまり身分というのを意識したことがない。
身分差で嫌なことがあっても逃げ出すことが出来る。
ある意味実力主義、能力主義の世界に生きている。
どこにも縛られず好きなところにいって商売して生きて行くことができる。
以前軍艦に無理矢理乗せられた時は階級差や身分差で本当に嫌な思いをした。
でもそれはわずかな時間でしかなかった。
農民たちは土地に縛られ一生涯嫌な思いをし続ける。
物理的に縛られている訳でも檻に容れられている訳でもないので逃げ出そうと思えば逃げ出せるが読み書きも算数も知らない彼らが他所でやっていくのは難しく、多くは山賊や盗賊に身を落としてしまうのが落ちである。
土地に縛られ一生その土地で生きて行く農民たちは身分というもののなかで生きて行く術を身に付けなくてはならない。
彼らの世界は手が届く範囲であり国家とか国民とかという概念そのものがない。
極端に言えば自分さえよければ後はどうなろうとどうでもよいというのが彼らのスタンスであり、物理的な得をもたらしてくれる者が人徳のある人でそういう人の話は聞くがそれ以外は基本聞く耳を持たない。
農民たちにとってエドモンドは「お説教ばかりのぼんさん」であり、得になる方法を説くばかりで直接得をもたらす者では無かったのだ。
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