第314話 海上戦5
海賊船はバリスタの攻撃が効いたと判断して勢いにのり、何度も接近してきて横並びになるとバリスタを放ってきた。
しかしすべて外れた。
どうやら100m以上での命中率はそれほど高くないようだった。
イングマルはその事がわかると少し冷静さを取り戻し、バリスタの特徴をよく観察した。
バリスタは車輪がついておらず左右の角度はほとんど変えることが出来ないようで、上下角のみ数人が大きな丸太を使ってテコのようにして微調整するだけだった。
標的が狙い目に入ってくるのを待って攻撃するものだった。
イングマルはもういつもの状態に戻っていてエーギルの元に行ってこれから攻撃する手順を説明し可能か聞いた。
エーギルはイングマルがいつもの調子になっているのを確認してから「任せろ。」といった。
イングマルは船底に行って大きなクロスボウを取り出し組み立てた。
かつてヴァルツ・モア・ブルック村が包囲されたとき使った特別大きなクロスボウで小型バリスタといってもよかった。
全長も全幅も2.5m程あり鋼鉄製の板バネを数枚重ねで作られている。
矢も直径5cm近い丸棒で矢の先はいろんなタイプがある。
イングマルはモリのような返しがついてひもを通す穴の空いた矢先をとりだして装填した。
この穴にロープを通し、矢の先から二本のロープが長いまま出ている状態にした。
このロープは特別丈夫なクレモナ産のロープでワイヤーのように極めて丈夫だが極めて高価であった。
「キャロル」と名付けたこの大型のクロスボウを持って船首の先に行き寝そべると2脚にキャロルを載せ盾の隙間から構えた。
エーギルに合図を送ると船は海賊船の後方から近づいた。
海賊船のバリスタは後方には向けることが出来ず、真後ろは死角だった。
海賊たちはまたクロスボウの攻撃を警戒して盾に身を隠していてロングボウの攻撃はなかった。
ぶつかるのではないか?というほど近づいてイングマルは「キャロル」を放った。
ロープ付きの矢は海賊船の舵の端に命中した。
そのままの状態で再装填し、矢の先にロープの端を留めて再び構えた。
今度は舷側の下の方に命中させた。
残ったロープを船にひっかけて船を移動させるとロープに引っ張られて海賊船の舵の向きが変わった。
左一杯に舵の向きがかわったところで「キャロル」を再装填し矢先にロープを留めて再び海賊船の船体に命中させた。
海賊船は舵を左一杯に切ったところでロープに固定されてしまった。
海賊は舵がロープでからめられ効かなくなったことがわかるとロープを切ろうとワラワラでてきた。
イングマルは通常のクロスボウでこれらの海賊たちをすべて射倒していった。
騎士たちもチャンスとばかりにロングボウを放っていった。
海賊船はやがて左旋回し同じところを回るようになった。
海賊たちは外からロープの切断をあきらめ船内から大勢で舵を動かしてロープを引きちぎろうとしている。
イングマルは再び「キャロル」を装填し先程と同じようにロープ付きの矢を舵に撃ち10本もの矢を打ち込みロープで固定した。
さらに矢先を尖ったクサビ型の矢を装填し舵のヒンジ部分に撃ち込んだ。
舵の可動部分に何本もクサビを打ち込まれ10本ものロープに固定された舵は完全にロックされ中からはもうどうやっても動かすことができなくなってしまった。
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