第313話  海上戦4



数時間おきにエーギルと舵を交代し休んだが夜が明けて明るくなってきて朝食を済ませると戦闘準備を始めた。




騎士たちはイングマルにクロスボウのことを色々聞きたかったのだが事前打ち合わせのときに偉そうに見下していたので何だかばつが悪く聞きそびれた。





イングマル自身は気にしてなかったしクロスボウについてもブルック村の女たちは誰でも出来ることなので凄い業と思ったことがない。


出来てあたりまえ見たいに思っている。





淡々と自分の作業を黙って進めていくイングマルを皆黙って眺めていてほとんど会話はなかった。








盾をチェックしてクロスボウを装填しエーギルに合図を送った。




前日と同じように海賊船の後方から接近していったが彼らも対策を夜のうちにして来たようでそこらじゅうに盾を取り付けていた。




その為海賊たちは盾に身を隠してイングマルもクロスボウを射てずお互いに盾の隙間から睨みあうというのが続いた。




それでもちょっとでも油断して盾から体がはみ出すとたちまちイングマルのクロスボウは見逃すことがなく正確に射倒した。



さらに薄い板材で作った粗末な盾は貫通させることができたのでそれらの盾に身を隠しても無駄であった。



数人に手傷をおわせた後、海賊船はスピードを上げて振り切り横並びになろうとしてきた。




海賊船の中央付近がキラッと光ったと思ったら大きな矢が飛んできて「ズバンッ!」という音がしてイングマルの船の前の方に命中し貫通してしまった。




イングマルはあわてて船体を確認しに船内に行くと丁度かご編み構造の部分に直径15cmくらいの穴が左右に2つ開いていた。



さいわい喫水線より上、甲板より下で人も馬も無事、浸水もなかった。




イングマルは急いで穴を板で塞ぎ釘で留めて応急措置をしたあとマストにのぼって海賊船を眺めると、船の中央付近に左右一台づつ軽トラ位ある大きな木枠が見えた。



攻城兵器の一種バリスタであった。




原理はクロスボウと同じだが極めて大型強力で城門を撃ち破ったりするのに使われる。




イングマルの腕くらいある太い矢が使われ、普通の船に命中すれば舷側の板は大きく破損するが幸か不幸かイングマルの船は船体の多くがかご編み構造だったので柔くて簡単に貫通してしまい矢の大きさの穴以外の損傷はなかった。




海賊たちは次の矢の装填のため必死に滑車を回している。




バリスタは大きくて装填にも数人がかりで時間もかかる。



照準の微調整も固定した陸上でないと難しいのだが彼らはどうやったのか?揺れる船の上で命中させた。




イングマルは船に穴を開けられたことで頭がいっぱいになり、顔を真っ赤にして怒りを抑えて完全に黙って船の修理を続けた。





エーギルはイングマルのそれまでの穏やかで落ち着いた雰囲気が消え、恐ろしい殺気をおびているのに気づいて心配になり海賊船から距離を取り続けた。







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