第267話  うっぷん





イングマルが廃船をかき集めて初めて作った船。



速度と耐久性があり気に入っていたがどうしても売ってくれと言われて男に売った。






船のことは覚えていたが男のことはほとんど覚えていなかった。


名前も記憶に無かったほどだった。





そう言えば船代もまだもらっていなかった。






イングマルは「やあ、貴方でしたか。こんなとこでなにしてんの?」というと

ジョンは見る見る涙目になって「う、う、ちくしょう!ちくしょうーッ!」と叫んで泣き出してしまった。




イングマルよりも体も年齢も一回り以上大きい大の男が往来で人目もはばからずオイオイ泣いているのを見て、イングマルの方が恥ずかしくなってしまってとりあえず馬車に乗せてその場を離れて近くの店に転がるように入った。




イングマルは「一体何がどうしたんですか?」と聞いた。




ジョンは泣き止んで嗚咽混じりにポツリポツリと事情をはなしはじめた。









船を購入後しばらくは調子良くいっていて海賊達に狙われてもスピードを出して逃げることが出来ていたという。



かなり儲けて船をもう一隻買えるくらい金貨を貯めることが出来たのだがそんな矢先2隻の海賊船の襲撃を受け、とうとう挟み撃ちにあい拿捕されてしまった。



船も金も積み荷もすべて奪われた。



不幸中の幸いというか戦闘で負傷してしまったので労働力としては使えないので奴隷として売られる事はなく解放された。




だが解放後、積み荷の損害賠償を荷主から負わされ補償をしなければならなくなった。



船代よりもはるかに高い補償金を支払えるはずもなく一生負債を返さねばならなくなった



怪我のせいで船には乗れなくて荷揚げ人足として働かされている。



もうジョンに自由はなかった。




イングマルは「他の船員はどうしたんです?他にも居たでしょう?」と聞いた。




他の仲間の船員も全員借金を背負わされてあちこちでコキ使われているという。








イングマルは話を聞きながらだんだんと腹が立ってきた。



ジョンにたいしても海賊達にも負債を負わせた者たちにも腹が立った。


しかしやはり海賊達への怒りが大きかった。





ジョンたちのことはどうでもよかったが初めて作った船が奪われてしまい、それがもし海賊船として使われているとしたらイングマルは我慢ならなかった。





強制徴募以来ろくな事がなかったのでここに来ていろんな怒りがこみ上げて来たのだった。


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