第266話 船員との再会
翌月もジェームスを乗せて今度はネーデルランド州の大きな港町アントウェルペンにやって来た。
イングマルは初めて行く港町で今回は海賊船には遭遇しなかった。
ジェームスは何度もやって来ているようで指示された管理のしっかりしている桟橋に停泊した。
ジェームスと馬車と馬を下ろした後二人は別れた。
二日後に合流するのでイングマルはその間このまちに滞在することにして自分の馬車と馬を下ろし犬のトミーも一緒に乗せて街を見て回った。
数キロに渡って河口の両岸に町が広がり町全体を把握するのは相当時間がかかると思われた。
古くから貿易で栄えているところであった。
この州は低地が多く船は出入りしやすいが暮らすためには土地をかさ上げしなければならない。
近くに石材もなく昔から石材を輸入している。
この町の石の需要は絶えることがない。
石を運ぶだけでもやって行けた。
これらの町は古くから商人が力を持ち都市を形づくり自治を行っている。
そのため他の町とは違い商人的なある種の合理主義が貫かれている。
良く言えば合理主義だが時に「守銭奴」と言われることがある。
近隣の人々からは「親でも高く売れるなら売ってしまう。」などと揶揄されていた。
「市民」を名乗れる一握りの商人とほとんど奴隷のような暮らしをしている労働者が町にあふれていた。
「市民」の力は貴族と同等かそれ以上のものがあり、小国の国家予算並の財を産み出す商人がゴロゴロいて金にものを言わせて強大な権力と軍事力を保持していた。
合理主義、資本主義の力学というか現象というか、現代でも同じだが巨大な財を産み出す面々は同じ者が揃い変化が無くなってきている。
産み出た富はそれらの富裕層達の間でのみ回るようになり各階層間の流動が無くなってくる。
成り上がろうという者はあらゆる手で闇に葬られてしまう。
この「市民」そのものが中世という貴族社会のなかで成り上がろうしている者のようだった。
イングマルは他の町とは違う雰囲気を感じながらそろそろ引き揚げようとして港の倉庫街を移動していたら荷揚げ人足の一人がイングマルの馬車の前に飛び出してきた。
男は「お、お、お、お前ーッ!」と叫んでイングマルを見上げた。
まるで子犬みたいにしっぽ振っているかのようにみえた。
イングマルはびっくりして男を見ていたが誰か分からなかった。
イングマルは首を傾げてキョトンとしていると男は「忘れてんじゃねーッ!オレだ!お前の船を買った船乗りのジョン・アローだッ!」と叫んだ。
イングマルはしばらく宙を見ていたが「ああ。」と言ってやっと思い出した。
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