第265話 海賊達の思惑
クロスボウの矢は舵手の右腕の付け根付近に命中した。
舵手をやられた船はすぐに別のものと交代したようだが優秀な舵手を失った船は先ほどのような巧みな連係運動はできず、もはや真っ直ぐ進むこともままならない状態となり見る見る脱落していった。
一隻となった海賊船ではイングマルの船に近づくこともできなかった 。
海賊船は一隻では無理と判断したようで諦めて離れていった 。
ぼやきのジェームスもほっと一安心すると腹が減ってきたのかその後食事をムシャムシャ食べていた 。
翌日にエストブルグに無事入港して馬車と馬を船から下ろした。
ジェームスは「ご苦労だった。」というとイングマルに金貨3枚を渡した。
イングマルは思ったより多いので「 こんなに良いの?」と驚いて言った。
ジェームスは「ああ、よくしてくれたからな。」と言って馬車に乗り込んだ 。
ジェームスとしても陸路で往復すれば1か月近くかかり、護衛の傭兵でも雇うものならこんな金額では済まないので大いに安上がりであった。
イングマルは「またいつでも使ってよ。」と言って二人は別れた。
その後ジェームスは度々イングマルの船を利用するようになった。
馬車と馬を載せれることが大きかった。
内陸部でも最寄りの港から行けばずっと陸路で行くより早くて済む。
それにイングマルの穏やかで静かで丁寧な態度や食事も気に入ったようだ。
他の船の船員と来たら粗野で乱暴隙を見せればたちまち盗みを働く、食事は豚のエサかと思うような代物であった。
どうかすれば海賊に乗客を売り渡すこともある。
その点ではジェームスはイングマルを信頼していた。
前回海賊船の舵手を射倒した事は海賊達の間に広まり、イングマルの船と旗印の馬車と犬のシンボルマークは彼らにとってある種の標的というか目標というか「誰があれを殺るか?」というシンボルのようになっていた。
海賊達にとって軍艦以外で警戒するのはギルドに所属し船団を組んでいる護衛の武装商船だった。
単独行動の小型船など本来獲物でしかなかった。
それなのに逆に攻撃されベテランの舵手が重傷を負ったことは彼らのプライド、メンツは大きく傷つけられた。
海賊達は金にならないことはしたがらないものだが今回は違った。
「何がなんでも殺ってやる!」と意地になっていた。
特に舵手をやられたジーベックの海賊船は復讐に燃えていた。
だがイングマルの船と実際に遭遇するとうかつに近づけずどうしていいか分からず回りをうろうろするしかなかった。
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