第241話 艦の魔女狩り2
軍艦カール・ド・ルシュキ号は艦長と次席の航海長は健在でその下の二等士官候補生と三等士官候補生が戦死、その下の水夫長や兵曹長が重傷であった。
軍艦の階級のピラミッド構造のうちトップだけ無事でその下の中間層がスッポリ抜けた状態で底辺の水夫が生き残っている。
底辺の水夫には年功はあるが階級はなくみんな同じ立場であった。
イングマルの回りをみんな避けるようになりとうとう動ける者たちが徒党を組んでイングマルの前に立ち塞がり人民裁判のようなことを始めた。
何を言っても無駄なことはわかっているので黙っていたが「戦闘中の任務放棄は軍規の重大な違反である。敵前逃亡だ!」と非難が続きみんな「そうだそうだ!」とはやし立て「軍法会議だ!処刑しろ!」と騒いだ。
司会役の男が「とりあえずお前を収監する」と言いイングマルは甲板下の牢屋に入れられた。
イングマルはすぐにリンチや処刑されるのかと思っていたのでちょっと拍子抜けした。
捕らえた海賊や違反者を収容するために作られた牢屋なのだが先に捕らえられた海賊たちは拿捕した船で港に移送されたので今はイングマルだけであった。
窓もない暗くて狭い所であったがイングマルは日常の作業から開放されてむしろホッとしていた。
横になりながら将来造る船の設計図を頭に描いて妄想していればすぐに時間がたっていてまったく苦にならなかった。
何日かするとまた別の人が牢屋に入れられてきた。
この人も同じようにいいがかりをつけられ軍規の違反者として吊し上げられてしまったようだ。
やがて毎週のように牢屋に入れられる人が増えていった。
船医のジョナサンは100人近い負傷者の手当でほとんど不眠不休の忙しさだった。
重傷者の中には予断を許さない者もいて目が離せなかった。
何日かしてやっと一息つくことができたが、日に日に患者の身の回りが汚れて包帯もシーツも換えていないのに気づいた。
どういうことか調べて行く内に艦内の異様な雰囲気に気が付いた。
ジョナサンは艦長と航海長のもとに行き「いったい何がどうなっているのか?」と問いただした。
艦長も航海長も自室にこもりがちで艦内で行われている人民裁判のことを把握していなかった。
艦長はジョナサンに言われてやっと面倒ながら艦内を見て回った。
負傷者は包帯も代えられず汚れたままで傷口からはウジがわきシーツも糞尿で汚れたままで艦内は悪臭が漂っていた。
看護をしていたイングマルのほか十数名は牢屋に入れられていた。
それを見て艦長も航海長もジョナサンも「なんだこれは!」とさけんだ。
近くにいた牢番に問いただすと「裁判の決定で・・・」と口ごもった。
すぐに艦長は裁判が行われているという水夫溜まりに行き「責任者は誰か?」と問いただした。
みんな黙っていたが中心人物が「この敗戦の責任を追及していたのです。」
と言い出した。
水夫長の補佐をしていたものだった。
負傷していたが動けないことはない。
「貴様!いったい何の権限でこんなことを?!」と艦長は叫んだ。
「水夫長が負傷しているので今は自分に水夫長の権限があります!」と水夫長の補佐役の男は叫んだ。
「水夫の管理は私の仕事です!」と続けていった。
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