第242話 帰港へ
「ふざけるなッ!乗組員の信賞必罰は艦長の権限だ!まして士官でもない貴様らには何の権限もない!」と艦長は怒鳴った。
「直ちに解散して捕らえられている者を釈放しろ!」と叫んだ。
「しかしッ!」と男は叫んだが艦長は「これは命令だ!」と一喝した。
しかし男は開き直り「いいんですかい?」とドスの聞いた声で艦長を睨み付けた。
「貴様!命令に従わんというのか?」と艦長は逆に男を睨み付け今にも反乱が起きそうな険悪なムードになった。
そのとき寝たきりだった水夫長が体を引きずって現れ男に向かって「ジェイソン!勝手は許さんぞ!」と叫んだ。
「水夫長!」とジェイソンはビックリしてたちまち小さくなってしまった。
ようやくその場が落ち着いてすぐに牢屋が開けられて全員開放された。
イングマルは横たわったまま動かないので他の者に死んでしまったのか?と誤解されてしまった。
イングマルの脳内で船の詳細な設計図が出来上がりつつあったのでその事で頭が一杯で開放されたことにも気がつかなかった。
すぐに全員元の作業に戻るように命令され、何事もなかったかのように一件落着した・・・・。
とはいかなかった。
看護をおろそかにし不衛生な状態にしていたせいで回復しつつあった重傷患者が再び重篤に陥っていった。
さらに牢屋に入れられた者たちの報復が始まった。
人民裁判の中心人物だった者たちがターゲットになり食事に腐った物を混ぜられたり新しい包帯を取り換えるふりをしてわざと包帯の内側に糞尿を混ぜた湿布を塗り込んで患部に巻いた。
それほどの怪我では無かったのにたちまち患部は化膿し破傷風になってしまった。
結局ジェイソン以下の人民裁判の中心人物ら5人が危篤になり、そのほか不衛生状態から容態が悪化した者18人も危篤状態になった。
イングマルは報復には参加していなかったしそんな事が行われているとはまったく知らなかった。
ただ忙しく洗濯機のようになって走り回っていた。
船医のジョナサンは「もはや船上では限界がある、一旦港に帰港すべきだ。」と艦長に提言した。
艦長は身の保身のことばかり考えていて艦内のことを見て見ぬふりをしていたらとんでもないことになっていた。
厳密には反乱ではないのだが広義の意味では事実上の反乱であった。
軍艦の反乱は艦長にとっては致命傷になりかねなかった。
軍法会議にかけられ艦長生命は絶たれ陸の閑職に回される。
そのまま退役引退となり財産を持っていなければみじめな晩年を送ることになる。
そのためにも海賊を多く退治して財産をつくらなければならないのにこのまま挽回のチャンスもなく帰港してもいいものかどうか?
長い間どうしようか悩んでいたがここに来てようやく帰港することを決めた。
今のままではどのみち勝算はなく下手をすれば艦を失いかねない。
艦を失えば間違いなく軍法会議なのでなんとか今のうちに帰港すれば先の功績を考慮され最悪の事態は回避できるだろう、と判断したのだった。
艦長の打算はともかくも乗組員一同、港に帰港できるのを聞いて大喜びであった。
イングマルも「これでやっと逃げ出せる。」と脱走の機会をうかがうのであった。
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