第234話 ケンカ
イングマルはずっと寝ていたがようやく寝返りをうてるようになり大分ましになった。
キッチリ24時間後に水夫長がきたが今度は起きていたので蹴飛ばされる事はなかった。
イングマルは誰が何の階級とかは知らないのでだれかれ構わず、すれ違う人みんなに敬礼している。
敬意を現すための決まりだが心から敬意を込めているものなどほとんど誰もいない。
条件反射のように、ある種の癖のようにしているだけである。
まだ背中が少し痛かったがイングマルは他の水夫たちにまじって作業していた。
3日もすると元に戻り何ともなくなっていた。
甲板の下は水夫の居住スペースで天井からハンモックがぶら下げられて1つのハンモックを二人で交代で使っている。
狭くて汚くてくさかった。
カーテンで仕切られたとなりは若い士官見習いや士官候補生の居住スペースであった。
三等士官候補生になるための学科試験をうけるためみんな非番のときは勉強している。
試験にはラテン語の試験もありみんな苦労していた。
イングマルはフリーダにラテン語の基礎を教わり彼女の口ずさんでいた詩なども覚えていた。
イングマルだけでなくブルック村のみんなは理解できる。
彼女の美しい歌声とラテン語の詩はイングマルにとって生きる讃歌であった。
ところが若い士官見習い達は出世の道具にラテン語をいやいや勉強している。
調子ハズレのラテン語やスペルミスの文章を見ているとフリーダ達が汚されているような感じがしてとても不快だった。
音痴の歌を聞かされ続けているようなものであった。
我慢できずイングマルは発音の違いやスペルミスを指摘した。
「なんだ!お前は!バカにしてんのか?!」そう叫ぶと彼らはイングマルを甲板に引き摺り出して殴る蹴るしてきた。
水夫長が飛んできて止めに入った。
「ケンカは禁止だ!何があった?」と水夫長は聞いた。
顔を真っ赤にして興奮している士官見習いは「この新入りが試験勉強の邪魔をしやがった!」と怒鳴った。
イングマルは「そんなつもりは!間違ってる所を言っただけだ!」と言った。
「お前!反抗するのか!またムチで打たれたいのか!」と怒鳴った。
「もういい!」と水夫長は叫ぶとイングマルの首根っこを掴んで「お前はめし抜きだ!」といって向こうへ放り投げた。
「くそが!くたばりやがれ!近寄んな!」と若い士官見習い達は怒鳴っていた。
以来イングマルは誰とも口を利かなくなってしまい、すっかりやる気を失ってしまった。
作業は普通にしているのだが何度も武器の手入れをしてみたり帆を固定しているロープをチェックするふりをしてみたり、仕事はしているのだが別にやらなくてもいいことをしている。
軍隊式の一種のサボタージュであった。
実は他の水夫達も訳のわからないラテン語を大きな声で発声練習しているのを鬱陶しく感じていたがなにも言えずにいた。
若い士官見習いたちは今回のことでその事を感じ取ったらしく発声練習は別のところで行うようになった。
イングマルはほとんど非番のときも甲板にいて甲板下には行かなくなっていた。
雨降りでも夜でもボロ布をかぶって逃げ出す算段をしていた。
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