第235話  船医のジョナサン・ショー






軍艦の船医は普通は陸の医者よりも格下であることが多い。



言わば研修医のような人が船医になり経験を積みやっと陸で一人前と認めてもらえる。



ところがこの軍艦の船医ジョナサンは陸でも立派な医者で艦長とは同窓だった。



しかも学者であり地理、植物、生物、海洋学と何でも興味があり論文もいくつも出していてその道の権威であった。



町の病院でじっとしてられなくて友人の艦長に頼み込んで船に乗せてもらいあちこち見て回っている。


いろんな民族や初めて見る動植物は彼の好奇心を掻き立てるのに充分だった。


もっとも陸の学者仲間からは危険な軍艦に希望して乗り込むなど余程の変人と思われている。






幅広い博識と人格者で艦のみんなには慕われていた。




この日も若い士官見習いたちがやって来て教えを乞うた。




ラテン語の発音や文章を見てもらいに来たのだ。



ジョナサンは一人一人丁寧に話を聞き間違いやミスを指摘していった。




ところが若い士官見習いたちは少し怪訝な表情をした。



それを見てジョナサンは「どうした?どこかおかしいところがあるのか?」と言った。




「あ、いえ別に・・・先生のことではなく・・・」と口ごもった。


先生のチェックしたところはイングマルが指摘した通りだったのだ。




先生はそんな彼らの態度を見て「君たちはこれから士官としてみんなを導いて行く立場になる者だ。」


「そんな話し方では全然要領を得ない。話すときは的確に相手に伝わるように話したまえ。」と言った。




彼らは「あ、はい。実は新入りがこの前我々のラテン語にケチをつけたもので少しこらしめたのを思い出しまして。」と話した。




「新入りが?やつはラテン語を知っているのか?」とジョナサンは言った。




「まさか!我々の勉強しているの鬱陶しく感じてイチャモンを付けたのでしょう。」と彼らは口を揃えて言った。




「ウム、しかしさっきこらしめたと言ったか?」とジョナサンは聞くと彼らはあわてて「いや、あの、こらしめたと言っても大したことないんです!なんか生意気で態度がでかいので!」と言った。




船医は微笑み「君らとあの新入りとはほとんど歳も同じだろう、同じ船の仲間、本来なら友人として接するべきじゃないかね。」


「しかも気に入らないからといって集団で一人をいたぶるのは紳士のすることじゃないな。」とさとすように言った。



それを聞いて「し、しかしあいつは強制徴用でいやいや船に乗っている様な奴です。階級も無視するような事をしていては示しがつきません。」と反論した。





ジョナサンは少し寂しそうな顔で「階級ね・・・この船は半数が強制徴用だよ。それに人の縁というのは立場や階級で語れる程単純じゃないんだよ。」


「しかも試験に合格していない君たちは今のところ彼らと立場は変わらないんだよ。」というと彼らはひきつった。



「君たちは将来が約束されたかのように考えているようだが軍人である以上今日明日死ぬかも知れないんだ。」



「いざというとき頼りになるのは階級や立場じゃない、真の友人だけだ。」

と言った。




生徒達はお互いに顔を見合わせていたが「友人ならすでに居ます。」といった。



「そうか?まあ今は分からなくてもいずれわかる日が来る。」とジョナサンは微笑みながら言った。





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