第233話 命令の拠り所
イングマルはムチで打たれ時強い殺意を覚えてこの船の全員を殺して船を奪って逃げようと思った。
本気でそう思ったが結局断念した。
この船は一人では操船出来なかったのである。
拿捕した海賊船は航海長ら数人が乗り込んで並走している。
やむ無くあきらめたがもし船が一人で操作できる物なら実行していたかもしれない。
イングマルは仰向けでは背中が痛くて眠れないのでうずくまったネコみたいな姿勢で眠ったが半日もしないうちに水夫長に蹴飛ばされ「当直の時間だ!」と言われた。
イングマルはヨロヨロと起き上がり作業を始めた。
ズキズキと背中が痛んだが何とか作業をこなしていた。
他の水夫は同情するものもいたが関わるのを怖れて無関係を決め込んでいた。
数時間後に船医がやって来てイングマルが作業しているのを見つけると驚いて「お前!何してるんだ?休んでなきゃダメだろう!」とさけんだ。
そこへ水夫長がやって来て「こいつは今当直です。」と船医に言った。
船医は「何を言っている?こいつは重傷なんだぞ!無茶をさせるな!」と言った。
水夫長は「先生、水夫の管理は私に一任されています。このくらいで根を上げるようじゃ水夫としてはやっていけません。」と言った。
「船の傷病者は私の管轄だ!この者は2日の休養が必要だ!」と怒鳴った。
この騒ぎを聞き付け他の水夫達も集まってきて遠巻きに見ていた。
イングマルのことでもめているが自身はどうしていいかわからずオロオロしていた。
艦長がやって来て「何の騒ぎだ?」と言った。
水夫長は「こいつに2日の休養が必要とドクターがおっしゃるので・・・。」と緊張して説明したが船医は「けが人を働かせるなどとんでもない、すぐに休ませるんだ!船医として許可できん!」と怒鳴った。
艦長は船医とイングマルを見ながらため息をついて「わかった。こいつは24時間休息させろ。」と水夫長に言った。
水夫長は「はッ!」と言って再敬礼してイングマルの首根っこつかんで去っていった。
残った艦長は船医に「こんなことでいちいち騒いでもらっては困る。」と言った。
「私だってこんなことで言い合いなんかしたくない。」と船医は言った。
艦長は「二人だけの時はいいが部下の前ではさっきみたいな態度を取るんじゃない、命令の出所が2系統あると部下は混乱する。」と言った。
船医は「善処しよう。だが我々は軍人である前に人間であることを忘れないでほしい。」と言った。
艦長は「またか」という顔をして「わかったわかった。」といった。
イングマルはまた甲板にうずくまるようにして眠りについた。
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