第232話 軍の規律
軍艦カール・ド・ルシュキ号は全長30m程の船で乗員は180人、海兵隊員は水夫も兼ねている。
今回の戦闘で死者はいなかったが8人が負傷したのでイングマルのほか捕らえた海賊たちの中で海賊島で買われた者も水夫として補充された。
拿捕した海賊船や積み荷はたて前上国王に献上されるが多くは艦長のものになる。
艦長は多くの場合貴族でありこの船の艦長も貴族である。
士官のほとんども貴族の舎弟でイングマルと同世代の者もいる。
戦利品をどうするかは艦長の采配次第である。
年若いイングマルだが他にも同世代の者が何人かいた。
だが彼等は貴族の子で士官見習いで船に乗っていた。
船は階級がすべてで歳は関係ない。
士官見習いと言っても位は高いので十幾つの子供に大人の徴募された者たちが敬礼している。
そんな事を知らないイングマルは誰にでも愛想よくニコニコしていたが敬礼をしていなかった。
それを見た水夫長は「おい!貴様!なぜ敬礼をしない!」と言って髪を掴んで甲板上に引き摺り倒した。
イングマルは「何するんだい?!」と叫んだが、すぐに他の水夫たちにも押さえつけられていた。
そのまま戸板に張り付けにして縛られた。
水夫長は艦長に「新入りが敬礼しませんでしたのでこれより懲罰をいたします。」と言うと艦長は黙ってうなずいた。
水夫長はムチを取りだしイングマルの背中を思いっきり打ち出した。
イングマルは「何するんだー!」と叫んだが構わずうちつづけた。
イングマルがグッタリするとようやく終わりイングマルは一応船医に診てもらい手当てを受けた。
船医は「何で敬礼をしなかったんだ?」とイングマルに聞いた。
イングマルは苦しみながら「敬礼って何ですか?」と聞いた。
船医は「お前、敬礼を知らんのか?」と船医は驚くとイングマルは「知らない。」と答えた。
船医はあきれて「位の高い者には敬意を現すため額に右手を当てるのだ。」と言って敬礼の見本をして見せた。
「そんなこと初めに言ってくれないとわからないよ。」と言って顔を伏せた。
船医はイングマルの手当てを済ませると「大丈夫だ、2、3日したら腫れも引くだろう。」と言って立ち去った。
船医は艦長のもとに行って抗議した。
船医は艦長と友人関係であったり艦長と気兼ねなく話せる間柄であることが多い。
船医は「まだ子供に何て事をするんだ?あいつは敬礼の仕方を知らなかっただけで反抗したわけではなかったぞ!」
「戦闘で負傷者が出ているのにこんなことでまたひとり負傷者を出してどういうつもりだ?」と艦長に言った。
艦長は「ガキの一人や二人、戦力にはどうと言うこともない。それより子供にも容赦しない態度を示すことで全体を引き締めれるのだ。」と冷酷に言った。
「大した理由もないのにあんなことをしたらただの威圧だ。いざというときの士気にも関わるぞ。」と船医は言った。
「軍は規律がすべてだ。これをいい加減にすれば軍は拠り所をなくして海賊と同じになってしまう。規律を守るためには何人たりとも容赦しない」と艦長はきっぱりと答えた。
「規律の事を知らない者には初めにちゃんと教えてやらないといけないだろう。」と船医は言う。
「だから教えてやっている、体でな。」と言うと艦長はニヤリとした。
「これが海軍式の教育方法だ。」と言う。
「そんな野蛮な方法をしなくても言えば普通に分かるだろう。」と船医はなお文句をいった。
艦長は「やけにあのガキのことを気にしているな、ガキがどうかしたのか?」と言った。
「ガキだけのことじゃない、君らは何かと言うと暴力で従わせようとする。我々は動物や野蛮人じゃないんだ、文明人なんだ。」と船医は言った。
「君と今、文明論を論じるつもりはない。」と言うと艦長はその場を後にした。
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