第229話  海賊船




天気がよければ夜でもけっこう明るく、星が届きそうな位に近くに見えた。



海も真っ暗ではなくプランクトンの影響なのか?ぼんやりと明るいときがあった。




不気味だと言う者もいたがイングマルはとてもキレイで幻想的だと思っていた。




イングマルは非番の時でも操舵手の元でベテランのやり方を見て覚えていた。




船は風や海流の力で船の重心は絶えず動いているため、まっすぐには進めない。



船の揺れをいつも立て直してなくてはならない。




船の軌道修正に必要な舵のかげんが必要で、過ぎても足りなくてもダメで船の揺れを先に察知して舵取りをする。



優秀な操舵手は大変尊重されていた。




舵手の男は口数が少なく羅針盤を見ながら絶えず舵を動かしている。




イングマルも黙って男のやることを見ていた。




船にはイングマルと同世代の者もいたが商船の場合多くがどこの誰かわからない寄せ集めであり士気も規律も低かった。



イングマルのように強制徴募の者など全くやる気がなかった。



それでも順風で天気もよく航海は順調だった。



時々魚釣りなどして遊んでいた。



せっかく釣り上げても釣った魚は士官や船長たちに横取りされてしまいイングマルが食べることは出来なかった。



アホらしいのでイングマルは魚釣りをやめてしまった。





そんな割りと楽チンな航海が続いていたある日の午後、はるか後方に船影を見つけた。



非番のイングマルが見付けているのに当直の見張りはやる気が無いのかまだ知らん顔である。



航海長に知らせると航海長は船長を呼んだ。



そうしているうち後方の船はどんどん近付いてくる。


かなりの快速である。




イングマルはビリビリと殺気を感じていたが、船長は後方の船の旗を見て安心して「あれは敵ではない。」と言っていた。



航海長は「用心のため海兵に戦闘配置に就かせては?」と進言したが、無視された。




船長は「いちいち面倒だ。」となんの疑いもやる気も持っていないようだった。




そうこうしているうち後方の船はすぐそばを追い越しつつ前に出ると突然旗を下ろして海賊旗を揚げた。



そうして船首に接舷しロープの着いたフックを投げてきた。



船長はポカンと見ていたがようやく我に帰って「か!海賊だ!せ!戦闘配置!」とさけんだがすでに船首からワラワラと海賊たちがなだれ込んできた。




この武装商船には海賊や私掠船から身を守るために海兵が多く乗っている。



海兵隊のいわれは元々海賊と戦闘するための船員が発祥であった。




奇襲に成功した海賊はこの船の半数にも満たない人数でありながらあっという間に船内を走り抜け、海兵が武器を取る前にほぼ船を制圧してしまった。



どんなに優れた装備や優秀な技術者がいても指揮官がお粗末では全く役には立たないと言う好例となってしまった。



イングマルや他の乗組員はさっさと降伏し隅っこで固まって手を挙げた。



結果的には誰も傷つかずに済んだのでその点では優秀な指揮官と言うべきか?







その代わり積み荷と船を失うことになった。




海賊たちの船は小型なので現金など運べる金品は移し、積み荷はそのままにして船ごと海賊たちの物にされた。



船の操作のためにほとんどの者はそのまま引き続いて船員として働かされた。



すべての武器が没収されてしまい数人の海賊が船長、航海長、操舵手、兵曹長として乗り込みイングマルたち船員を監視した。



船長や航海長ら身分の高い者は身代金を要求するため海賊船に連れて行かれた。




2隻の船は並走しながら海賊のアジトに向かって出発した。



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