第227話  新しい船



貴族たちが立ち去った後イングマルは罠の所に戻り何日かかけて罠を片付けて堀溝も埋め戻した。




貴族と用心棒たちは全員瀕死の重症で中でも侯爵の息子のミハエル・ハルトマンは何日も意識が戻らなかった。




両方の手足はすべて複雑骨折、歯のほとんどが失われ顎の骨折とでまたしても全治半年以上となった。




イングマルは「これで当分平穏だろう」と思い「半年後またやって来たら同じ目に会わせてやろう」と考えていた。




坂道の戦いは誰にも知られることはなく町が急に平穏になったことでみんないろいろなウワサをするようになっていた。






親方も気になって町の会頭らに会って情報を仕入れてきた。



親方は「貴族らは事故で大怪我をした」という。





イングマルは「ふ~ん」と興味なさげに聞いていた。


「まあいいんじゃない?当分平穏みたいだし。」といつまでも気にしていても仕方がないと気持ちを切り替えて途中だった造船作業場に戻っていった。







新しいイングマルの船は何人もが手伝ってくれたので大分早く出来た。




新しいキャビンに吊りベッドや食堂、調理場、トイレも備えた。



従来の船より巾が狭いし材料も大分少ないはずなのだが後部の二層式甲板構造が大変インパクトがあり上品で気品があり優雅に見えてとても美しいスタイルとなった。




まだ完成していないのにすでに評判になっていて見学に来る人がいた。







コーキング作業も終わり舵やマスト、帆布など取り付けが終わり試運転がてらセーリングをして楽しんだ。



休みの日は大勢造船所の子供たちだけでなく興味のあるお客さんも乗って来て隣町まで買い物に出掛けたりした。



食堂もあるこの船旅は快適でとくに町に行く用事もないのに船にのりたがる人が大勢いた。




イングマルは試運転と調整のつもりだったのでとくに断ることも金をとるわけでもなくみんな楽しんでいるのを見て満足していた。




この状況が良いことなのかどうか?良くも悪くも目立ってしまいどこに行っても注目された。



「今日は何処にいた、この前はあの町にいた」と全然知らない人からも言われてちょっと戸惑っていた。





それでもこの船で行く範囲はせいぜい日中移動する範囲で夜は港で停泊しまた日中に造船所に帰るという程度である。






操船は出来るようになったが、航海術のすべてをマスターしたわけではない。



簡単な方位磁石と砂時計、スピードを測るログという細いロープ、太陽の角度を測る分度器、航法装置と言えばその程度しかない。




岸から離れて比較するものがない沖に出れば海流や風の影響で自分の現在地がたちまちわからなくなってしまう。





最もほとんど同時代の船はみんな同じで古代バイキングの時代からナポレオンの時代まで同じようなものしかなかった。



そのため海岸伝いに岸が見える範囲で移動するのが普通で夜間に海に出るのは危険なのでイングマルたちはしなかった。




イングマルたちの行動範囲はその程度のわずかなものである。








この日は立ち寄った町で泊まることになり、気前のいいお客さんらに誘われて町の酒場に大勢で行ってみんな浮かれて騒ぎ、酒が進むとどんちゃん騒ぎになってしまった。



イングマルはほとんど酒は飲めなかったが無理に飲まされたりしてすぐに具合が悪くなりひっくり返ってそのまま寝てしまった。






水をぶっかけられて目を覚ましたら船の上ですでに海上を移動している。



イングマルは訳がわからずキョロキョロ辺りを見渡すと自分の船ではなかった。





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