第226話 坂道の途中
坂道で待っているとガヤガヤと30人程の集団がやって来た。
彼等はイングマルを見つけると「貴様ーッ!待っていたぞ!今日こそこの前の礼をしてやるぞ!覚悟しろ!」と叫んだ。
それを合図にみんな走り出したがすぐにひっくり返ってしまった。
イングマルがベルトをブンブン回して石を投げてきたのだ。
次々と相手の顔面に命中し、命中した相手はひっくり返って顔を押さえている。
思った以上に坂道の勾配がきつくて中々たどり着かない。
イングマルも後ろに下がりながら石を投げてくる。
面白いようにバシバシ顔面に石が命中しすでに10名あまりがひっくり返り顔を押さえてのたうち回っていた。
「あれ?このまま石で撃退できるんじゃ?」と思い始めたがやはりそう簡単ではなかった。
彼等は軽装だが甲冑を着けていた。
ヘルメットに小手当てやすね当ても装着しそれなりに前回の対策をしてきているようだ。
腕で顔を隠して身を縮めて近づいてくる。
甲冑の着けていない腿や腕などを狙って当てるが彼等は我慢してやって来る。
すでにほとんど全員傷だらけになっていたがますます怒りに燃えて近づいてくる。
イングマルもさらに後退し徐々に罠のゲートのなかに入って行った。
冷静に回りを見て状況を判断すれば「おかしい?」と簡単に理解できたはずだ。
イングマルが待ち構えていたこと、武器を用意していたこと、街道の外れに見慣れない施設があること。
だが彼等はいきなり石をぶつけられ、致命傷ではなく嫌がらせの様な攻撃を受けて怒り心頭で我を忘れて猪突猛進してきてゴキブリぽいぽいみたいな罠に自分から飛び込んでいった。
そうでなくても彼等は今までの人生で自分が罠を仕掛けられたことなどなく想像もしていなかった。
通路の端でさらに石を投げて相手をおちょくり角棒を構えて対峙した。
貴族たちは息を切らせてやっと追い付いて剣を抜くと顔を真っ赤にして「き、貴様~!ふざけやがって~!八つ裂きにしてやるぞ!」と叫んだ。
イングマルはそれを聞いてから微笑むと罠のヒモを切った。
「バコン」という音をたてて網が持ち上がり全員すくい取られてしまった。
イングマルはフェンスの上に急いで上り投網を上から投げ掛けた。
全員目の細い網にからめ取られて、甲冑などが引っ掛かって身動きできなくなってしまった。
イングマルはわめいている彼等を見渡しはた竿を取り出すと上からバンバン打ち据えて行った。
今度の竿は簡単に折れないように太く丈夫で鉄板も厚いのが巻いてある。
端から順番にイングマルらしい正確さと丁寧さとで打ち漏らしがないように徹底的に打ち据えて行った。
飽きてくると下に降りて網からはみ出ている手や足を角棒で思いっきり打ち据えて行った。
角棒の威力は思った以上に強く甲冑の上からでも簡単に甲冑がへしゃげてしまい衝撃で下の肉体も無事では済まなかった。
もちろん甲冑の無いところに打ち据えると簡単に骨まで砕ける手応えがあった。
イングマルはあきれる程簡単に罠に掛かったことに拍子抜けし逆にこんな簡単な罠に引っ掛かる様なお粗末な者たちが我が物顔でいることに腹立たしくなってしまい容赦なく打ちのめしていた。
散々暴れて疲れてきたのでようやく止めて罠のロープをほどいて彼等を解放した。
ほぼ全員瀕死の重症であったが侯爵の息子のキングことミハエル・ハルトマンだけがまだ戦意を保っていてヨロヨロしながらもイングマルに立ち向かおうとしていた。
イングマルは仕切り直し衣服を整えると角棒を顔の前にかかげ正眼に構えた。
キングは前回のように突きを放ったがイングマルは今回避けもせず相手の右腕を内側からはね飛ばすとそのまま突きを入れた。
口のなかに剣の先がめり込み勢いよく引き抜くと歯がボロボロと落ちた。
さらに相手が倒れるまでの間に手や足など甲冑のない所に集中して打ち据えた。
倒れたキングはすでに気を失ってピクピクと痙攣していた。
他の貴族を見渡し、いどんでくる者を探したが誰もおらずみんな泣いて許しを乞うた。
「た、頼む!もう許してくれ、勘弁してくれ!」とひざまづいて祈るようにしていた。
それを見て「二度と悪さをしないと誓約するか?」とイングマルは聞いた。
みんな「誓約する」と言ってうなずいた。
イングマルは「3度目はない。」とだけいうと素早くその場を離れて立ち去ってしまった。
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