第225話 罠づくり
イングマルは約1ヶ月の間に対策を考えねばならなかったが、わからないように殺害してしまうという選択肢は取らなかった。
自分でも不思議だったが、なぜかそんな気にならなかった。
身分の高い貴族の舎弟を殺害すれば必ず調査や追手がやって来る。
今は船づくりに夢中のイングマルは邪魔されたくないという思いが強かった。
造船所とは無関係という立ち位置で彼等をこてんぱんにするためどんな手を使うか?
イングマルはこの前ギャング団を撃退するとき使った罠と同じようなものを使おうと思ったが造船所は使えないのでどこか適当な場所を探した。
町外れに見晴らしのいい坂道が続く場所があった。
坂の上はなだらかな丘で町が見渡せ良い眺めである。
他にはとくに何もなく木もはえてない草地であった。
ここに罠を仕掛けることにして早速丘の頂上に長さ3m程の太い丸太3本を三角に組み合わせ地面に固定した。
20m程離れた所にもう一ヶ所つくった。
この間を巾2m程の溝を堀り掘った土を両脇にのせて土塁にした。
堀の深さは1.5m程だが土塁の上にフェンスを建てたので地面からフェンスの上までは3m程ある。簡単には乗り越えられない。
この堀の底に前に使った太い漁網を敷いて砂をかぶせて見えなくした。
作動用の重りは製材前の太い丸太を何本も運んでストッパーを噛ましておいて
丸太と漁網を太いロープで固定した。
丸太ややぐらが見えないように張りぼての小屋を作って隠しておいた。
ぱっと見は木こりの作業場のように見えた。
ここまで作るのに3週間かかっていた。
自分で作っておいて何だが、あまりにも簡単に罠とばれてしいまいそうで「こんなもんにかからないのではないか?」とちょっと不安に思った。
まあダメなら逃げたらいいと思って仕掛けをもう一度チェックして回った。
今回も新しい武器を作った。
以前作った3mほどの竿のさきに鉄板を巻いたはた竿と鋼鉄製の角棒である。
角棒は木の棒より軽い力で破壊力がある。
先端はピンポン玉くらいの大きさの鉄球がくっつけてあった。
今度の連中用に鍛冶場で自作したものだった。
色んな戦闘場面をシュミレーションして各部をチェックし準備万端整えて貴族のいるサロンに知らせに行った。
サロンでは玄関前まで気勢を上げて騒いでいるのが聞こえてきた。
玄関に入って近くにいた人に「あの人が来たよ!北の街道の坂道を登って行くと作業場があって、今夜はそこに泊まると言っていたよ!明日にはすぐに町を出るらしいよ!伝えたからね!」と言ってすぐに出ていこうととした。
貴族たちはそれを聞いて「ちょっと待て!奴一人か?」と聞いた。
イングマルは「そうみたい、あの人はいつも一人だよ。」
「僕がチクったなんて言わないでよ!これ以上かかわりたくないからね!」
そう言うと逃げるように立ち去った。
貴族たちは「よーし!お前ら!手勢を集めろ!集まり次第出掛けるぞ!」と配下の者に命じた。
イングマルはすぐに馬に乗って現場に行き馬を隠すと変装して着替えた。
以前被っていた職人用の頭巾を被り手拭いをマスクのようにして顔にまき、久しぶりに革のベストを着た。
シャツの下は鎖カタビラを着て腰には短剣と剣の代わりの角棒を差している。
さらに握り拳大の石をたくさん袋に入れて持ってきていた。
革のベルトに挟んで投石に使うためだ。
たかが小石とあなどれない。
ベルトの遠心力を使って飛んでいく石は秒速50m以上になり、その破壊力は重さの二乗に比例して大きくなる。
顔面に命中すれば無事では済まなかった。
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