第207話 領主のヘンリー卿
やっと全員解放され、かろうじて動ける者たちはヨロヨロと帰って行ったが幹部連中のなかには動けないのもいたのでイングマルはそれらを馬車に乗せてアジトの前まで送り届けた。
イングマルは最後まで何も話さず黙々と馬車を走らせ去っていった。
翌日からイングマルは関所を壊しに行った。
軽症だった者達がいるところもあったがイングマルを見ると一目散に逃げて行った。
その日のうちにすべての関所を破壊して解放した。
ようやく元の日常に戻りギャング団もほとんど見かけ無くなった。
イングマルも船頭の仕事から解放されやっと造船作業に戻ることができた。
それぞれのギャング団はイングマルひとりにやられたことが信じられなかったが、怒りや憎しみ復讐心といった感情は起こら無かった。
彼らの感情としてはどうしようもない災害や害獣に襲われたような感覚で、二度と関わり合いたくないと言うのがほとんどの者達の共通の思いだった。
だが関所を壊され戦闘員すべて戦闘不能で当分活動できない。
「どうしたものか?」と思い悩んでいるところにギャング団のリーダーひとりづつ順番に領主から呼び出された。
「貴様!金はどうなってるんだ!」
領主のヘンリー・キリッチ卿は開口一番叫んだ。
今期の上納金がまだ納められていなかった。
「貴様らが存在していられるのは上納金があるからだぞ!貴様らのようなクズどもを国王や周辺の人々に認めさせているのは誰のおかげだと思ってる?!このワシがあちこち手をまわして金を使っているからだぞ!」と叫んでいた。
「金を納めんのなら、お前らはもうこの町にはおられんようになるんだぞ!それでもよいのか?!」と畳み掛けた。
「お待ちください、造船所の連中が・・・」と言い訳をしようとしたが「黙れ!言い訳など聞く耳持たん!」とケンモホロロである。
「金を持ってこい!金を持ってきたものだけを認めてやる!」と3人のリーダーに同じことを言った。
領主は三者を競わせることで三者から金を納めさせていた。
これまではそれで上手く行っていたが今度の状況をよく理解していなかった。
領主のヘンリー卿は先祖がこの町ができる前からの領主で、今も土地の借地代を税金として町から納めてもらっている。
ヘンリー卿がリーダー達に恩義背がましく言ったことはすべてデタラメである。
ヘンリー卿は先祖の威光で地代を納めてもらっているが自分で国のために何かしら手柄を立てたわけではない。
そのままおとなしくしていればよかったが、なんとか中央で影響力を持ち出世したいと思うようになった。
手柄を立てる能力はないが金をばらまくという手段で名声を得ようとしている。
そのためいくら金があっても足りなかった。
ずっと地代は据え置きだったのに急に地代を上げると言い出したり、家屋税や人頭税を設けると言い出したり、都市国家として独立してきた町と対立するようになってきていた。
そんなに中でギャング団の存在は領主にとっては便利な財布であった。
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