第192話  降り払う火の粉






イングマルは当主の持っていた書類を見ると「右の者、ベーゼル伯爵家の使用人にて、いかようにもご処分してくださって結構です。」と書かれていた。





執事は震えながらイングマルに剣を向けられるとすらすらと事情を話した。




イングマルは「頭の良い連中はどうしてこういうしょうもないことを思いつくのか?」と呆れてしまった。



辺りを見渡すと娘が一人、ポカンとして髪の毛を触ったまま立ち尽くしていた。



執事はやっと事態が飲み込めたらしく「なんてことをしてくれたんだー!どうなるのか分かっているのかー?!」と喚き出した。



イングマルは事情が分かったので「もういいや」と思い、握りこぶし大の石を持って来るとうるさく喚いている執事の口の中に石を突っ込んでそのまま棒でアゴを殴りつけた。



全ての歯が砕け散り、そのまま執事は気絶してしまった。




イングマルはすぐその場を離れ、今度はバカ息子の屋敷に向かっていった。





バカ息子の屋敷では領主のベーゼル伯爵と息子と執事たちが祝杯をあげており「これで一件落着だ。」と喜んでいた。



伯爵は「今後は自重することだぞ。」と説教した。




笑いながら息子は「ハイ父上、申し訳ありませんでした。」と頭を下げた。




「分かれば良い、以後気を付けることだ。」と伯爵は言ったが、息子は頭を下げたまま机の皿の中に顔を突っ込んだまま動かなくなっている。




伯爵は「どうした?もう良いというのだ、おい!」と声をかけたが息子は全く動こうとせず白目を剥いて気絶していた。




やがて机の下から血まみれのイングマルが姿を現し机上に上がった。




伯爵は「おおおお、お前は?!」と驚きのあまり腰を抜かして椅子にへばりついたままになって立ち上がれなかった。




イングマルは「ご主人様、お望みの通り相手の御印を頂いて参りました。」というと殺害した相手の貴族の首を伯爵に放り投げた。




受け取った伯爵は初め何だかわからなかったが「ひッ?!」と叫んで椅子に腰掛けたまま仰向けにひっくり返りそのまま泡を吹いて白目を剥いて気絶した。



そばで執事がすべてを見ていたが何もできず声一つあげることなく固まっていた。



息子はイングマルに急所を掻き取られていた。




イングマルはすぐその場を離れて自分の馬車の所へ向かった。









「この!くそが!言う事を聞け!」


ブローはイングマルの馬車を自分のものにしようとしてなんとか操ろうとしていたが、馬も犬も全く言うことを聞かず全然動かなかった。




そこへ荷台からひょいとイングマルが姿を現した。



「うわーッ?!」


ブローは血だらけの イングマルの姿に驚いて馬車から転げ落ちてそのままはって逃げようとした。



しかしイングマルに荷台に据え付けてあった愛用の樫の棒で散々打ちのめされて気絶させられた。



イングマルはブローを縛り上げ、荷台に乗せるともう1度娘の貴族の屋敷に向かった。




屋敷の周りは既に騒ぎを聞きつけた大勢の人が屋敷を覗き込んでいた。



イングマルは止まることなく屋敷の門の前にブローを放り出してそのまま走り去った。


縛られ気を失っているブローの首から書類がぶら下げられていて「右の者、ベーゼル伯爵家の使用人にて、実行犯にて、いかようにもご処分してくださって結構です。」と書かれていた。



イングマルが書き換えたものだった。




殺された当主はこの地域の知事職に就いていて事件はすぐに大騒ぎとなった。




その後、バカ息子のべーゼル伯爵家が自分達の不祥事の発覚を恐れてブローに命じて相手の貴族を口封じに襲い殺害したということになった。




相手の貴族は当主を失い断絶し、ベーゼル伯爵家は取り潰された。




ブローは実行犯として捕らえられた。




当初は実行犯を探したが、行方不明となった真犯人を探すよりはブローを身代わりにして処罰した方が手っ取り早いと考えられたのであった。





イングマルは何事もなかったようにして仕事に戻り、仕事が終わると手間賃をもらってすぐにその町を離れた。




事件の真相が明るみになるのはイングマルが去った1週間もあとのことで、取り調べようにもとっくに町を離れていたので分からなくなっていたのでブローを身代わりにしたのであった。





イングマルはやばやと海に向かって出発していた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る