第186話  悪魔の辻2






静かになった暗い屋敷の中に全員で一斉に突入した。





暖炉の火の回りだけ少し明るくなっていて、イングマルは燃える火を見つめながら独りたたずんで、二ーナから聞いていた殺された5人の女達の事を思い返していた。








突入した盗賊団全員で取り囲むと、暖炉の明かりに浮かび上がったイングマルは血まみれで剣は血が滴っていて暖炉の前で呪文のように何かぶつぶついっている。





「グレタは、赤ちゃんができたと喜んでいた。・・・・」






「カミラは恋人ができたと喜んで、将来お嫁さんになって幸せになると喜んでいた。・・・・」






「リサはニーナの大好きな、面倒見の良い子だった。・・・・」






「モニカは明るく働き者で、皆に愛されていた。・・・・」






「レベッカは誰にでも優しくて、本当に美しい人だった。・・・・」







「みんな、さぞ苦しかったろう・・・・悲しかったろう・・・・悔しかっただろうな・・・・。」




そうつぶやくとイングマルは盗賊団の方を見回し優しく微笑んで







「さぁ、みんな、あの世へ行ってもらうよ。」と言った。









身に覚えのある男たちが「テメェは、あの女どもの身内か!」と叫んだ。





が言い終わるより早く、イングマルは四つんばいで彼らの間を獣のように駆け抜けた。




男たちは血しぶきを上げて倒れてゆく。











屋敷の中から泣き叫ぶ声、ものが落ちる音、逃げまどう足音がドタバタと響いていた。





見張っていた近所の村人や間者たちも、屋敷の異変に気づいて遠巻きに見ていたが中まで入ってこようとはしなかった。






最後の1人になった男は泣き叫びながら「お前は、一体、何なんだー!」と叫んでいた。








「僕はイングマル・ヨハンソン。・・・戦うために生まれてきた。・・・」とつぶやいた瞬間、男の首が転がった。






静かになった城の最上階にイングマルはゆっくり上って行った。







フェルト子爵が窓の前で、ボーと外を眺めていた。







イングマルが入ってきたのを見ると「マティアス・・・おかえり・・。」とつぶやいた。



とても優しいおだやかな父親の表情だった。




が、マティアスではないことわかるとたちまち目に生気が戻り「なんだ、お前は!」と叫んだ。






イングマルは「僕はイングマル・ヨハンソン」とつぶやいた。





フェルト子爵はたちまち怒りに満ちて「貴様かーッ!貴様がマティアスをーッ!」と叫んで、剣を取り出してイングマルに斬りかかろうとした。






しかし、でっぷりと太った腹に剣がつかえて足をとられて転んでしまった。





その拍子に自分の胸を自分の剣で刺してしまった。





体が重くて起き上がることができず、もぞもぞと動いてやっとのことで仰向けになった。






傷口を抑えゼーゼー喘ぎながら「マティアス・・・マティアス・・・」とつぶやいている。





イングマルは子爵のそばに来て見下ろした。





とどめを刺そうと首に剣を突き立てようとしたが、フェルト子爵はイングマルをにらみながら





「息子と・・・・地獄で・・・・待ってるぞ・・・・・。」とつぶやいた。





イングマルは「ああ」といったが、既に子爵はこと切れていた。





イングマルは階下に戻り、隠れていた女たちを連れ出した。















城門が開き跳ね橋がガラガラと音をたてて下ろされ、女たちは走って逃げていった。




遠巻きに見ていた村人はすぐ彼女たちを保護した。












しばらくして城から煙が上がり、やがて炎が上がった。






その後、血まみれで剣を持った人らしきものが出てきたが、村人には人には見えず思わず「悪魔だ。」とつぶやいた。



見たら目が潰れると思い、思わず目を伏せた。





しばらくして目を上げると、もう悪魔の姿はなくなっていた。





村人はいつまでも焼け落ちる城を眺めていた。














その後、王都から役人がきて現場検証した後「盗賊団は仲間割れの挙げ句、互いに殺しあって自滅した」とされ、多数の死骸を発見し墓まで運ぶのが面倒なので城の堀溝に死骸を捨てて堀を埋め戻し、城壁も壊され更地になった。





ここに城があった事はすぐに人々に忘れ去られたが悪魔が出た事は長く語り継がれ、この街道辻は赤い悪魔の出る辻「悪魔の辻」と呼ばれるようになったという。








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