第185話 悪魔の辻
イングマルはぼんやり北に向かって移動しながらこれまでの事を思い出していた。
初めは面倒と思っていた帰還の旅もいつの間にか家族同様となっていたが、突然の別れでぼうぜんとしていた。
いつかはこういう日が来るのはわかっていたがあまりに突然であった。
そう言えばイングマルはいつも突然別れが来る。
国を追われたときも、二ーナや叔父と別れたときもそうだった。
これからもおそらくそうなのだろう。
北の大きな町でフェルト子爵の残党のことを聞いた。
彼らは居城を追われた後近くの支城に移りそこにたて込もって急ピッチで城を手直ししていると言う。
城と言っても大昔に使われた小さな出城で、もう誰も昔の時の様子を知っている者はいない。
とっくに廃城になっていたが堀や城壁はほとんど残っている。
城は街道の辻の小高い斜面にあり、背後は森になっていて近くには人家もある。
イングマルはフェルト子爵のことを聞いて学園前の出来事を思い出していた。
公爵の息子の腰巾着ぐらいの記憶しかない。
学園前のことはまだ2年もたっていないがイングマルにとっては遥かな昔のことのようだ。
けっこう近くなのでそこに向かった。
村人たちは盗賊団がやってきたことがわかると近寄ろうとはせず、窓をしめ切ってただただ早く去るよう祈るばかりである。
王都から間者が多数やってきて、城のことを聞いて回って監視している。
だが盗賊団の方も一般人に成り済まして王都にスパイを潜り込ませ、討伐軍の様子をうかがっている。
大軍が来たら離脱し、小規模ならここで迎え撃つようだ。
城にはときどき馬が出入りしている。
盗賊団の伝令で王都の仲間からの連絡のようだ。
彼らによって次の農閑期まで攻撃は無いことを知っていた。
盗賊団はしばらく攻撃がないことに気が緩み、酒と女を求めてさまようようになった。
そして数名の村の女がさらわれてしまった。
村人は王都からの監視に来ている間者に「何とかしてくれ!」と詰め寄ったが間者にはどうすることもできず「もうすぐ討伐軍が来るから、我慢して欲しい」と村人たちには言っている。
村人は城に近づきたいが怖くてできず、でも離れることもできずだだ見守るだけであった。
イングマルはちょうどそんなとき村にやってきた。
村では人々が泣いていた。
村人や間者たちから事情を聞いた。
間者達から生き残ったフェルト子爵の配下の者の中には、ヴァーベルト公爵の居城で召使いをしていた者たちもいることをきいた。
彼らは人質となっていたニーナの友人の5人の女を殺害した実行犯であった。
公爵が気に入って彼女たちを乱暴し、その後召使いたちに処分させた。
彼らは女たちをさんざんもて遊んだ挙句に殺害した。
彼らは国王の近衛兵がやってくると、まっさきに逃げてしまった。
フェルト子爵の噂を聞きつけすぐ子爵の屋敷に逃げ込んで以来、行動を共にしていた。
イングマルは夜になるのを待ってから城の背後の森の中から城内に潜入しようとした。
森の中に着くと隠れている人がいた。
王都の間者であった。
イングマルに気がつくと剣を向けてきたが、盗賊ではないことがわかると剣をしまった。
どうやら近所のガキと思ったようだ。
イングマルは「何してるんです?」と聞くと「中の様子を見張っているだけだ。」と言いながら「シッ、シッ」と追い払う。
イングマルは「ふーん」と言って城へ向かっていった。
男は後から「おい!何処へ行く!」と止めたが構わず城内に入っていった。
城の街道沿いの正面には堀があり見張りがいるが、背後の森のほうは崖になっていて見張りは居なかった。
正面に堀と城壁、背後が崖に囲まれた簡単な作りの小さな城であった。
簡単に侵入できた。
中心の館から女の泣き叫ぶ声が聞こえて来た。
小さな出城なので簡単な構造で、すぐ居場所はわかった。
盗賊団の総数は50人程。
屋敷の中に10人ほど、城の正面や城門上に20人、残りはやぐらや見張りに数人ずつ配置されていた。
女が屋敷の中に連れてこられ、集団で乱暴されようとしていた。
イングマルは屋敷の窓から飛び降り、屋敷内にいた10人を次々と短剣で刺し殺してゆく。
あっという間に全員を倒すと女たちは怯えていたが、しばらく暖炉の横の薪がつんである所の後に隠した。
「何があっても声を出さず出ないように」と言った。
女達は震えながらもうなずいて身を締めてじっとした。
屋敷内が急に静かになったので外にいたものが中の様子を伺いに入ってきたところをイングマルは討ち取って行く。
3人倒したところで外の者がやっと異変に気付いた。
見張りの者も合わせて全員が呼び集められて、一斉に突入した。
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