第181話 北方の討伐
イングマルたちとほぼ時を同じくして北方の盗賊団討伐も同時進行していた。
マクシミリアン学園でイングマルに息子を殺されたフェルト子爵は財力がないのでイングマルの討手を雇う資金がない。
そのため盗賊団にねぐらを提供しその代わり強者をその中から選ぼうとした。
しかし次第に盗賊団に乗っ取られるようになり、彼らを抑える力も気力も無くして言いなりとなっていった。
フェルト子爵の領地はもはや盗賊の国となっていた。
ヴァーベルト公爵の長男グスタフ・ヴァーベルトが総司令官としてこれを討伐すべく出動し、総兵力は5,000にもなった。
十分な兵が集まるとグスタフの動きは早かった。
自ら馬に乗って盗賊団の根城であるフェルト子爵の居城へ進軍した。
フェルト子爵の居城には500以上の盗賊団がいたが、城が包囲されてしまったことを知ると頑強に抵抗した。
10倍もの兵力差がありながらなかなか落とすことができず、多数の犠牲が出続けた。
グスタフは巨大なやぐらを城壁の前に作り、城壁を見下ろすやぐらからロングボウや火のついた油ダルなどを城内に放り込んだ。
外の城壁が破られると中に進み、内壁もまた同じようにしてやぐらが作られて攻撃をし続け、やがて包囲網は小さくなって行きついに盗賊団は全滅した。
イングマルたちとほぼ同時期に戦いは終わった。
しかし丹念に調べてみると、肝心のフェルト子爵が見当たらない。
後で分かったことだが城には抜け穴があり、早々と子爵と取り巻き連中数十名は逃げ出してどこかに行ってしまっていた。
討伐に参加した5,000の兵の内8割以上が重軽傷を負い、1,800以上の戦死者を出した。
あまりの犠牲の多さに王宮にいた者皆驚いたが、盗賊団は事実上壊滅させた。
グスタフ・ヴァーベルト公の名声と株は、大いに上がることとなった。
間者からの情報でフェルト子爵ら盗賊団の生き残りは意外と近くにいて、子爵の支城にいることがほどなくしてわかった。
支城は急ピッチで手直しされている。
すぐ追撃しようとしたが、今回犠牲が多すぎたことと農繁期に入って兵が集まらない。
暇な騎士が全部で30騎ほどしか集まらなかった。
今回の戦いの手当てが少なかったことも影響しているようだった。
やむなく、次の農閑期まで追撃は中断されることとなった。
戦時下の統制経済も解除され普通に戻った。
王国に仇なす盗賊団を討伐したグスタフ・ヴァーベルトは一躍時の人であった。
王都に凱旋した彼は皆からもてはやされていた。
一方のフランシスたちの戦いは私闘であったので公には評価されなかった。
一般の民衆はイケメンのグスタフに夢中だった。
だが犠牲になった兵たちの遺族は複雑だった。
盗賊団を壊滅させても彼らにはなんの手当てもなく、働き手を失って何一つ得することはなかった。
さらに軍の専門家からも「こんなに犠牲者を出して首謀者を取り逃がして、とても勝ち誇れるものではない」と冷たい評価であった。
それより犠牲のなかったフランシスたちの戦いが「信じられん」というほど高評化であった。
専門家はフランシスのもとに通い話しを聞きたがり、一般の人はグスタフに話しを聞きたがった。
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