第176話  戦略






いまや宝石のように高値な小麦粉で、計算の早いニコラスはすぐ焦りだした。




単純な掛け算と足し算でニコラスの財力では半年も持たないことが分かったからだ。



これまでの人買い団や今度の4000の兵を雇い入れたことで、ほとんど財産はなくなっている。




しかし従来の物資の値段なら、1年以上もつ計算だったのだが北方の討伐の出兵が重なりこの異常な物資の値上がりは計算外だった。



大兵力というのは諸刃の剣なのだ。



巨大な兵力はそれ自体の重さを支えるだけの経済力がなければならない。




ニコラスだけがそのことを一番理解している。




他の者はわからない。








彼には手足となって動く部下や手下はいるが、有能な参謀も友人と言える者もいなかった。



ずっとそうしてきたし、彼自身はそのことを苦だと思ったことはない。




若い頃は二役も三役も、自らつとめることができたが今はもうそんな力はない。



若い頃と同じ感覚でこれまで手を打ってきたが、全て計算違いとなってきた。





ジャン・ポールの打った手が、少しずつ功を奏していた。





ニコラスの心配をよそに兵たちは初めの戦闘に恐れをなして、自然と包囲戦になった。




包囲していればそのうちに奴等は根を上げて降伏する、何も無理押しすることはない。



宴会でもして待っていればいいと思っていた。







包囲戦は心的ストレスが大きい。




籠城する側はもちろんだが、攻め側にも思った以上にストレスとなる。





テントで日々過ごし、地面はぬかるみ飲み食いにも不自由である。



生活には向かない場所に居続けなければならない事は、どうしても無理が出てくる。



彼らは些細なことで言い争いやケンカが頻発していた。




毎日上等な白い小麦のパンを食べているが、それもすぐ飽きてきた。




しばらくすると脚気や壊血病の症状の者が現れ始めた。



ビタミン不足からくる病気だが、この時代にはそのようなことはわからない。



昔から船乗りや都市生活者によくかかる病気として知られていたが、原因はわからなかった。





イングマルは経験から小麦ではなく、そばやえん麦ライ麦の全粒粉を食べていればこの病気にかからないことを知っていた。



素朴だが値段も安くこれらを主食にしていた。



今は皆のおかげで美味しく食べることができる。








ニコラスはさらに焦っていた。


三つの補給ルートのうち二つが、この前から途絶えているのである。





「どうなっているのか?」斥候を出しているのだが音沙汰が無い。



5人、10人と偵察や斥候を出すのだが、全て帰ってこない。



ニコラスは50人の部隊を作って、補給ルートの安全確保を目的にして出発させた。












ブレンダやクリスタ達はこれまでに帰ったメンバーを尋ねて周り、イングマルたちの村から一番近い隣のセントナムの街を集合場所にしていた。




山向こうに避難していたレオンとベラもこの街へ来ていてメンバーと合流していた。




ジャン・ポールの元へ行っていた者も戻ってきて程なく全員集合した。




ジャンポールからは、分厚い書類を渡された。



なんとかイングマル達に渡すように頼まれていた。



イーリス、マーヤたちの村からは、援軍に40人のメンバーが加わっていた。



総勢79人。



村にいるメンバーより大勢ではあるが、それでも79人である。




4000人の兵とは焼け石に水のようであるが、メンバー一同負けるとは思っていなかった。




メンバーは二手に分かれ、敵の補給ルートを断つ作戦に出た。





ブレンダは闇夜に紛れ、山回りの秘密の抜け道を通って村に無事たどり着くことができた。





イングマルにジャンポールからの書類を渡し、既にメンバー全員集まり包囲軍の後方を抑えていることを伝えた。










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