第175話 包囲戦
その日の午後、再び彼らはやってきたが今度はフランシスとローズが砦の入り口に立ち、土橋を渡ってくる者すべてを倒してしまった。
その日だけで100人近い死傷者を出し、彼らは再び後退した。
3日後、彼らは強力な盾を掲げ、恐る恐る土橋を渡って第一砦の中に入ってきた。
イングマルは、わざと第1砦の中のたまり場いっぱいになるまで 兵 を招き入れ、勢いよく入ってきた兵が身動きできないぐらい入ると第2砦からクロスボウを浴びせかけローズたちが討って出た。
兵たちは慌てて戻ろうとするがいつのまにか帰りの出口は柵が降りてしまって後退できなくなり、第一砦の入り口に隠れて潜んでいたイングマルが外側から土橋を渡ってくるものを蹴散らしながら同時に第一砦から後退してくるものを攻撃して行く。
逃げ場を失った第1砦の中の彼らは、なすすべがなく逃げ惑うばかりだった。
彼らは長年まともに力仕事をしたこともなく、女を殴りつけ縛り上げるぐらいしかしてこなかった。
声を荒げて怒鳴りつければ言うことを聞いていた女たちを相手にするだけで、戦い方など全く知らない。
武器を持って数で押していけば相手は恐れをなして逃げ散る、と思い込んでいた。
戦場の何たるかを全く理解していなかった。
たった数人相手に、第一砦内の中の兵は全て倒されてしまった。
この戦いで300近い死傷者を出して、彼らは再び沈黙した。
その後、何日も何も起こらなかった。
イングマルは時々、闇夜に紛れて偵察に出て彼らが攻勢には出ず包囲戦に徹することがわかった。
森のあちらこちらにテントが張られて、長期に備えている。
彼らは一人一人手押し車で自分の食料を運んできていたので一人40 kg 近くの食料を持っているとして、節約すれば3ヶ月以上持つだろう。
イングマル達も十分な食料を確保している。
籠城ならイングマルたちの方が有利である。食料は2年近い備蓄がある。
村の中心からは清水がわきだしている。
「売らずに良かった。」とつくづくほっとした。
彼らの総司令官のニコラス・エランは森の本陣に来ていた。
森の中から砦の旗ややぐらの上にいる人を苦々しく眺めていた。
ニコラスはこの戦いで今度こそイングマルを葬り去るつもりで、全ての財産を使うつもりだった。
イングマル達を殺してこの村を新たに拠点にしてまた人を売買すれば失った財産などすぐ取り戻せる。一石二鳥と思っていた。
彼は雇った村人の気分が高まっているうちに戦いを終わらせようとして、金に糸目をつけず武器や防具、食料を集めた。
しかし幸か不幸か、北方の盗賊団の討伐に時期が重なり物資が入手しにくくなっている。
が北方の討伐に兵が出払い、イングマルたちに援軍が来る見込みはない。
ニコラスは今がチャンスと思っていた。
当面の食料は各自が運んできたので、ニコラスは3ヶ月はもつと思っていた。
しかし、ここに計算違いが早くも生じていた。
兵たちは長年贅沢がすっかり身についてしまっていて、節約とか倹約とかという考えはもうとうなかった。
いや正確には難民となって一時飢えに苦しんだが、そうなった原因を反省するつもりは微塵もない。
反省と言えば捕まったこと、ばれたことを反省し「次はばれないようにしよう、捕まらないようにしよう。」と反省するのであった。
その上で今、手に入りそうな村を目の前にして兵として生きている今の自分に興奮し、期待し、はしゃいでいて包囲戦のもと連日どんちゃん騒ぎであった。
持ってきた食料はたちまち消耗して行き、備蓄はわずかになっていく。
食料、物資の買い付けに出している配下の者が定期的に物資を運んでくる手はずなのだが、なかなかやってこない。
やっと来たと思ったら、精白された小麦粉ばかりであった。
この時代、普段でも精白された小麦粉は大変貴重で高価であり、庶民にはなかなか食べれないものだったので、兵達は喜んで白パンにして食べていた。
ニコラスは運んできた者に外部の様子を聞いたが「小麦粉以外に手に入らない。」と言う。
しかも、とんでもない高値となっていて毎日のように値上がりしているという。
ニコラスは三つのルートから物資の補充を行っていたが、どのルートも小麦粉ばかりだった。
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