第171話 皆の村づくり
乗馬を禁止された日から反発と説得の日々だったが、村の掟を変えることはできなかった。
説得が無理とわかると彼女たちは馬に乗って村を出た。
示し合わせたわけではないのだが、ほぼ同時にみんな家を出た。
しかしどこに行くかはちゃんと伝えておいたので、厳密には家出とは違う。
両親たちも変わってしまった我が娘に半分あきらめているようであった。
皆はフランシスの新しい領地に辿り着いて、すぐに道を作り始めた。
道と言っても下草を刈り取り大きな石をどけて、馬や馬車で何度か通っていると自然にできた。
森を抜けると湿地が広がり、串に刺した団子の形の半島状の台地が湿地に突き出している。
ここを村の中心砦としてすぐ開拓を始めた。
元々台地は平坦で草を刈り灌木や石を取り除けば乾いた地面が現れた。
中心付近に大きな岩がありその岩の下の地面の亀裂からきれいな水が湧き出ていた。
湧き水の周りを石で囲い小さなため池を作った。
切り倒した木で柵と住まいを作った。
初めの建物は皆で一緒に寝泊まりできる大きな竪穴式の家にした。
冬に備えて直径10m深さ2mくらいの穴を掘り中央に柱を立て、柱にたる木を三角に固定しアシやススキの屋根を葺いてさらに屋根の上まで掘った土をかぶせた。
掘った穴の壁が崩れないように杭と木の枝を編み込んで土止めを作り、煙出しの穴を一箇所開けておいた。
半地下の竪穴式住居は洞窟の中にいるようで、火を炊かなくても暖かかった。
砦の反対方向の森の奥は山地が広がっていて、レオンとべラは山に牧場を作っていた。
森を抜けた山へ続く斜面はほとんど木は生えておらず、芝草が生えていた。
柵を作って家畜を放し粗末な小屋を作ったらレオンはひたすら草刈りをしていた。
冬用の乾草を急いで作らないといけない。
森は山菜や燃料、薬草、狩りのためなるべく手をつけずにおいた。
イングマルはいくつか抜け道を作り、万が一の脱出ルートとした。
湿地沿いのさらに奥の森を抜け山の向こうへ出る道や、湿地を越えて対岸の森へのルートも確保した。
湿地は水深1m ほどだが、ぬかるみに入ってしまうと足を取られ抜け出せない。
湿地用に平らな底の浅い船も作った。
柳の枝をフレームにし舟形に編み込んで外側から皮や帆布を貼り、さらに表面にタールを何重にも塗り込んだ。
非常に軽い船で丘の上に上げておける。
家と柵ができると砦の防御機能がさらに高くなるように、森にも柵と堀を広げていった。
元々の天然の地形が堀状になっていたので、底をさらえるだけで深さ10m近い急峻な堀ができた。
村3箇所に高さ20 m近いやぐらをたてると、辺りを一望できた。
森の入り口から山の上の方まですべて見渡せた。
穀物倉庫も数箇所作り、馬車から持ってきた食料を収めた。
住まいが一段落するとみんなで牧草の乾草作りを手伝った。
今年度は畑までは無理だったが、冬を越す分の備蓄は既にある。
それでもまだ安心しないイングマルは、えん麦やそば、きび、ひえ、ライ麦などを買いに近隣の街や村を何度も往復して仕入れた。
何百袋もの穀物を購入し倉庫いっぱいに収めると、2年以上分の備蓄ができた。
既に何度も砦を作っている皆は、手馴れていていつもと同じように作業している。
しかしだんだん村の形が出来てくると自分の居場所が出来て行く喜びをじわじわと感じていた。
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